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この世界

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わたくしはオリヴィア・ガーデンズ。ガーデンズ公爵家の長女だ。
前世ではただの高校生。もうほとんど覚えていないけれど……
この世に転生してきたときは、自分の名前も、顔も、全て覚えていたのに、今ではもう思い出せない。

この世界は恐らく乙女ゲームの世界だ。
珍しく、高位貴族が主人公のゲームだった。平民がヒロインばかりじゃつまらないとかで…
主人公はわたくし。オリヴィア・ガーデンズだった。内容も登場人物も覚えていないから、それくらいしか分からないけれど、知らないよりはマシよね。


コンコン


「お嬢様、おはようございます。そして、17歳のお誕生日、おめでとうございます。」

「ありがとう、マリ。お父様も起きた頃かしら?」 

「はい、食堂でお待ちでございます。」

「すぐ行くわ。支度を手伝ってくれるかしら。」

「かしこまりました。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「リヴィ、17歳の誕生日おめでとう。あと一年で学園も卒業だな。」

「ありがとうございます、お父様。」

「それから、今年も来てるぞ。殿下から。」

「あ……申し訳ありませんが、今年もお断りさせて頂いてもよろしいでしょうか。」

「そうか……それはいいが……リヴィ、分かってると思うが、お前もそろそろ婚約者を決めないとな。もう17歳なんだ。」

「………はい。分かってます。」

「その顔は分かってないな。はぁ、その頑固さマリア譲りだな。」

「…すみません。」

「いや、いいんだ。リヴィなら1人でも公爵家を担っていけるだろう。だが、世間はそれをあまり良しとしないからな。お前を守るためでもあるんだ。それだけは分かってくれ。」

「ありがとう…ございます。」

「さぁ、こんな話は置いておいて食事にしよう。晩餐はもっと豪華だぞ。」

「それは楽しみです。」


◇◇◇◇◇◇◇◇


カチャカチャと食器が立てる音だけが食堂に響く。

豪華な夕食を前にしても、私はうじうじと悩んでしまっていた。

早く婚約者を決めないといけないのは分かっている。
でも他の男性と話していても思い出すのは彼のことばかりで、そんなの相手に悪い。

他の令嬢の中で婚約者がいないのはわたくしくらいでしょうね。

それに、今日で前世の「私」の歳を超えてしまった。



………もう、そろそろ潮時かしら。


「お父様。やはり先程のお話、少し考えても良いでしょうか。」

「…!あぁ、良いよ。殿下にも伝えておこう。」

「ありがとうございます。」

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