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1章
27話
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そしてそれからマリアとしばらく話たり、アップルパイを食べ終わった子供たちがクレアを質問攻めにしたりしているうちに帰る時間になった。
「それでは私たちはお暇します」
クレアと私が立ち上がると子供たちが駆け寄ってきた。
「またあそびにきてね!」
「またね!」
笑顔で別れの挨拶をする子供たちに、私たちも笑顔で手を振る。
「それじゃあまた来ます!」
「またね」
孤児院を出ても、子供たちが手を振ってくれるので、私たちは何ども振り返りながら歩く。
そしてようやく姿が見えなくなった時、クレアが呟いた。
「お前、最初からアップルパイを運ばせるのが目的だっただろ」
「そんなんことありませんよ。……半分くらいです」
「おい!」
クレアが怒った。
許して欲しい。私だってあんな量のアップルパイを運ぶのは重いのだ。
「すみません」
「全く……」
「クレアさん」
「今度は何だ」
「これが私が正体を知られたくない理由です」
「……」
「私はたくさん弱者がいる施設を運営しています。もし私の正体が知られたら、彼らが攻撃の的になってしまうかもしれない」
実際に、そういう事があった。
貴族によって孤児院の子供たちが狙われたことが。
幸いにも孤児院の子供たちに害が及ぶことは無かったが、マリアはその事がトラウマになって貴族に苦手意識があるし、私もまたその出来事を消化出来ていない。
「それだけは絶対に嫌なんです。実際にそういうことをしようとした貴族もいましたし。だから、私は正体を知られたくないんです」
私が話し終えるとクレアは口を開いた。
「……何で急にそんな話を?」
クレアは急に私が何故こんな話をしたのか分からないようだった。
「昨日はクレアさんの秘密を見せてもらいましたから。これでフェアです」
私はニコリ、と微笑む。
昨日クレアが望まない形でクレアの秘密を知ってしまった。
だからバランスを取るために私も一つ教える。
これで公平、フェアだ。
「…………そうか。ありがとう」
クレアはふっと笑う。
そしてしばらく無言の状態が続いた。
私は何だか無性に茶化したくなった。
「それにしても、子供たちに接する時のクレアさん、まるで聖母みたいでしたよ。私にもずっとあんな感じで接してくれたらいいのに……」
私は頬に手を当てて悩ましげにため息をつく。
いや、本当にあんな感じがいい。
私もバブみたっぷりのクレアに甘えたい。
「おい、せっかくいい感じだったのに台無しにするな」
クレアは呆れたようにため息をつく。
そしてフッと微笑んだ。
「まあ、お前はすごいよ」
「えっ?」
唐突に褒められたので驚いた。
まさかクレアが私のことを素直に褒めるなんて思わなかった。
「まだ十代で子供なのにそんなに立派に働いてて、本当に凄いと思う」
「な、何ですか急に……」
「お、何だ照れてるのか?」
「違います!」
私が小さい頃に両親がいなくなったから、今まで褒められた経験が少ないだけで、断じて照れてない。
ちょっと驚いているだけだ。
驚いて頭に血が昇ったのか、顔が熱い。
私はパタパタと顔を手で仰いだ。
「…………何で私を褒めるんですか」
「別に。でも、褒めてくれる人がいないって、辛いから」
そう言えば、クレアは私のことを調べていた。
その時に私の両親が亡くなっていることを知ったのだろう。
そして、クレアは父との関係は冷え切っている。
クレアは親に褒められないということの辛さを身に沁みて知っているのだ。
「……ありがとうございます」
私はできるだけ小さな声でお礼を言った。
クレアは私の言葉を聞いて驚いていた。
「……何ですか。私だってお礼は言いますよ」
「いや、お前。顔真っ赤だぞ」
「っ!? 違います! 夕陽です! 夕陽に照らされてるから赤く見えるだけです!」
私はクレアの視界を塞ぐために手で目を覆った。
「あっ! おい! 何すんだ!」
「こっち見ないで変態! 私は真っ白な肌の乙女です!」
「それは分かったから! 前が! 前が見えない!」
私たちは騒ぎながら歩いていく。
私は久しぶりに誰かに褒められて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったのだった。
「それでは私たちはお暇します」
クレアと私が立ち上がると子供たちが駆け寄ってきた。
「またあそびにきてね!」
「またね!」
笑顔で別れの挨拶をする子供たちに、私たちも笑顔で手を振る。
「それじゃあまた来ます!」
「またね」
孤児院を出ても、子供たちが手を振ってくれるので、私たちは何ども振り返りながら歩く。
そしてようやく姿が見えなくなった時、クレアが呟いた。
「お前、最初からアップルパイを運ばせるのが目的だっただろ」
「そんなんことありませんよ。……半分くらいです」
「おい!」
クレアが怒った。
許して欲しい。私だってあんな量のアップルパイを運ぶのは重いのだ。
「すみません」
「全く……」
「クレアさん」
「今度は何だ」
「これが私が正体を知られたくない理由です」
「……」
「私はたくさん弱者がいる施設を運営しています。もし私の正体が知られたら、彼らが攻撃の的になってしまうかもしれない」
実際に、そういう事があった。
貴族によって孤児院の子供たちが狙われたことが。
幸いにも孤児院の子供たちに害が及ぶことは無かったが、マリアはその事がトラウマになって貴族に苦手意識があるし、私もまたその出来事を消化出来ていない。
「それだけは絶対に嫌なんです。実際にそういうことをしようとした貴族もいましたし。だから、私は正体を知られたくないんです」
私が話し終えるとクレアは口を開いた。
「……何で急にそんな話を?」
クレアは急に私が何故こんな話をしたのか分からないようだった。
「昨日はクレアさんの秘密を見せてもらいましたから。これでフェアです」
私はニコリ、と微笑む。
昨日クレアが望まない形でクレアの秘密を知ってしまった。
だからバランスを取るために私も一つ教える。
これで公平、フェアだ。
「…………そうか。ありがとう」
クレアはふっと笑う。
そしてしばらく無言の状態が続いた。
私は何だか無性に茶化したくなった。
「それにしても、子供たちに接する時のクレアさん、まるで聖母みたいでしたよ。私にもずっとあんな感じで接してくれたらいいのに……」
私は頬に手を当てて悩ましげにため息をつく。
いや、本当にあんな感じがいい。
私もバブみたっぷりのクレアに甘えたい。
「おい、せっかくいい感じだったのに台無しにするな」
クレアは呆れたようにため息をつく。
そしてフッと微笑んだ。
「まあ、お前はすごいよ」
「えっ?」
唐突に褒められたので驚いた。
まさかクレアが私のことを素直に褒めるなんて思わなかった。
「まだ十代で子供なのにそんなに立派に働いてて、本当に凄いと思う」
「な、何ですか急に……」
「お、何だ照れてるのか?」
「違います!」
私が小さい頃に両親がいなくなったから、今まで褒められた経験が少ないだけで、断じて照れてない。
ちょっと驚いているだけだ。
驚いて頭に血が昇ったのか、顔が熱い。
私はパタパタと顔を手で仰いだ。
「…………何で私を褒めるんですか」
「別に。でも、褒めてくれる人がいないって、辛いから」
そう言えば、クレアは私のことを調べていた。
その時に私の両親が亡くなっていることを知ったのだろう。
そして、クレアは父との関係は冷え切っている。
クレアは親に褒められないということの辛さを身に沁みて知っているのだ。
「……ありがとうございます」
私はできるだけ小さな声でお礼を言った。
クレアは私の言葉を聞いて驚いていた。
「……何ですか。私だってお礼は言いますよ」
「いや、お前。顔真っ赤だぞ」
「っ!? 違います! 夕陽です! 夕陽に照らされてるから赤く見えるだけです!」
私はクレアの視界を塞ぐために手で目を覆った。
「あっ! おい! 何すんだ!」
「こっち見ないで変態! 私は真っ白な肌の乙女です!」
「それは分かったから! 前が! 前が見えない!」
私たちは騒ぎながら歩いていく。
私は久しぶりに誰かに褒められて、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったのだった。
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