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1章

9話

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「おっ、おい……!」

 クレアが私にだけ聞こえるような小声で注意してくる。
 しかし私は止まらない。
 私はハッキリと見捨てろ宣言されたことで、頭に血が昇っていた。

「なぜ婚約者がいらっしゃるのに、マーガレット様をお誘いにならないのでしょうか」

「マーガレットには派閥があるだろ」

「でしたら私たちも派閥を優先させても問題ないはずですが」

 ルークは痛いところをつかれて「うっ……」と言葉を詰まらせた。
 そして苦し紛れに理由を絞り出す。

「…………お前たちの派閥はできて間もないだろう。派閥のうちに数えない」

「日が浅くとも派閥は派閥です。それに時間を重きを置くなら、婚約して長く経つマーガレット様をより大事になさってはいかがでしょうか」

 いつの間にか廊下は騒然としていた。
 下級貴族の男爵家が王族に口答えして、その上勝ちそうになっているからだろう。
 野次馬から「あいつ誰だ」とか「男爵家のくせに王族に反抗するのか」と話し合っている声が聞こえる。
 ルーク王子もまさか男爵令嬢にここまで反抗されるとは思っていないかったのか、苦い表情になった。

「お、俺は王子なんだぞ……?」

「ええもちろん知っています。しかし派閥の主を守るのは部下として当然の役目です」

 私はクレアが嫌がっているぞ、と言うことを仄めかし、皮肉を効かせて言った。
 本当は自分のためだが、そんなことはおくびにも出さない。

「俺の誘いをクレアが嫌がっていると言いたいのか?」

「私が言ったのは派閥を解体させないという意味です」

 ルーク王子に言葉の意味を問われると、私は肩をすくめてとぼける。
 かろうじてそういう意味にも捉えられなくもない。

「おい──」

 するとルーク王子は我慢の限界に達したのか、不機嫌そうに眉を顰め、私に何か言おうとした。
 しかし私の前にクレアが出てきた。

「ありがとう」

 クレアはそう言うと王子と相対する。

「っ! クレア! 俺と出てくれる気になったのか!?」

 クレアがパーティーに一緒に出る気になったと思ったのか、ルーク王子は笑顔になった。
 しかしクレアは笑顔でそれを否定する。
 完全にポーカーフェイスを取り戻しいつもの調子に戻っていた。

「それは何度も言っていますが、お断りさせて頂きます。私は王子とパーティーにペアで出ることはありません」

「何でだ! 俺のどこが──」

「これ以上わがままを仰るなら、国王様に報告させて頂きます」

「ぐっ……」

 クレアがルーク王子の言葉を遮りそう言った。
 するとルーク王子はあからさまに不味い、という表情になった。
 そして少しの間考えた結論を導き出した。

「……確かにクレアの言う通りだな。今回はクレアの気持ちを優先することにする!」

 どうやらルーク王子は国王に報告されるのが嫌なだけなのに、表向きはクレアの気持ちを尊重したことにするらしい。
 ルーク王子はそう言うと足早に去って行った。
 私とクレアはルーク王子の背中が見えなくなるまで見届けると、一息ついた。

「はぁ……助かった。まさかあんなに身分をたてに迫ってくるとは思ってなかったから、困惑したんだ」

「私も派閥が解体されて酷い目に遭いたくなかったので、何とか切り抜けられてよかったです」

「でもお前多分目をつけられたぞ。それはどうするつもりなんだ」

「た、確かに……!」

「考えてなかったのかよ」

 クレアは呆れたようにため息をついていた。
 あの時は派閥を解体されたら私がとんでもない目に合う、と言われていてもたってもいられなかったのだ。

「なんかルーク王子にどんな目に遭ってもいいって言われて、頭に血が昇っちゃってつい……」

「お前、王族にあんな啖呵切れるなんてすごいな……。王子の方もびっくりしてたぞ」

「あああ……っ! やってしまった……!」

 私は頭を抱える。
 勢いに任せて王族に喧嘩を売ってしまった。
 周りからも「あいつヤバいな……」とか「王族に喧嘩売ってたぞ……」とか言われてるし!

「ま、まあ私のことなんて覚えてないでしょ!」

 私は現実逃避することにした。
 そうだ。あんなに下級貴族には興味が無かったんだ。
 次に会った時には私のことなんて忘れてるに違いない!そう思いたい!

「まあ、お前がそれでいいならいいけど……」

「ほ、報復とかされませんよね?」

「さぁな」

 クレアが肩をすくめる。

「どうしよう……! 何であんな馬鹿なことしたんだ私っ……!」

 何で王族に喧嘩を売っているんだ!
 私はさっきの行動を思い出し自分の愚かさを嘆く。
 もしかして不敬罪に当たるんじゃないだろうか、と私が悩んでいるとクレアが慰めるようにポンと肩に手を置いた。

「まぁ、そんなに心配するな」

「え?」

「さっきは助けてもらったから、今度お前に何かあったら俺が助けてやる。たとえ王子相手でもな」

「クレアさん……」

 私は顔を上げる。
 クレアは自分で言った台詞が恥ずかしかったのか、照れ臭そうにそっぽを向いていた。

「今日は男らしいですね」

「よりによって言うことがそれかコラ」

 頭を叩かれた。
 でも照れた顔はツンデレ美少女みたいでちょっと可愛かったので許すことにした。
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