上 下
1 / 45
1章

1話

しおりを挟む

 ここはセントリア学園。

 貴族から平民まで、様々な身分の人間が通う学園。

 その中でもカーストのトップに位置しているマーガレット・エドワーズ公爵令嬢の取り巻きBをしているごく普通な私は。


──推しを見つけた。





 突然だが、私には前世の記憶がある。

 前世の私は日本で会社員をやっていた、ごく普通の女性だ。

 それがある日突然過労死で死んでしまった。私の勤めていた会社がブラックだったのだ。

 二十連勤の末、死んでしまった。

 よく考えれば六年間働いていてなぜ死ななかったのか不思議なくらいだが、それは“推し”の存在があったからだろう。

 度重なる連勤で“推し”からエネルギーを貰えなくなった私はとうとうエネルギーが切れて死んでしまったというわけだ。

 そして死んでから目覚めるとこの異世界で赤ちゃんとして生まれていた。
 ここが異世界だと分かったのは生まれてから随分後のことだ。

 ともかく、私は異世界に転生した。

 現在の私の名前はエマ・ホワイト。とある公爵令嬢の取り巻きBをやっている男爵令嬢だ。

 私のボスたる公爵令嬢の名前はマーガレット・エドワーズ。このフラノス国の王子であるルーク・フラノスと婚約している公爵家の令嬢だ。

 黒髪をロールさせている気が強そうな美人だ。

 私がマーガレットの取り巻きをすることになった経緯は学園に入学した初日に遡る。

 たまたまマーガレットの近くの席に座っていた私はマーガレットに話しかけられた。

「あなた、男爵家なの? ならちょうどいいですわ。わたくし…の取り巻きになりなさい!」

 その一言で私は取り巻きになることが決定した。

 公爵家は貴族の中で一番高い爵位。
 一番下の男爵家の私とは天と地程の身分の差がある。

 吹けば飛んでいくような男爵家の私では当然断ることも出来なかった。
 もし断ことわれば角が立つ。そうなるとこれからの学園生活、いやその先の人生まで影響を及ぼす可能性があったからだ。

 そうして私は現在、公爵令嬢の取り巻きBとして暮らしている。

 今日も取り巻きとして昼休みに食堂で開かれているお茶会に元気に顔を出しているところだ。

 のどかな日差しが差し込む中、丸いテーブルにマーガレットと、取り巻きの私達五人が座ってお茶会をしている。

 ここは食堂に繋がっているテラス席で、食堂の中を一望出来る。私たちは毎日ここを使っているので、もはや固定席になっていた。

 語られるのは大体マーガレットの自慢話か校内の噂話、つまりは誰と誰が好きだとか、そういうゴシップだ。

 今はマーガレットが婚約者のルーク王子から一輪のバラを貰った、という自慢を聞いているところだ。

「まぁ、ロマンチックですわ!」
「素敵!」

 取り巻きたちは口々に褒めそやす。

「本当に素敵ですねぇ」

 それに合わせて、私も何とも無難な肯定の言葉を連ねた。

 実はルーク王子が“別の人物”に一輪の薔薇どころか、大輪の薔薇の花束をあげていて、マーガレットに送ったのついでであることは周知の事実だったりするのだが、それをわざわざ口に出したりはしない。

 これも処世術だ。

(それにしても、退屈だ)

 このお茶会で私がすることと言えばマーガレットへの賞賛を並べるか、たまに振られる話に対して相槌を打つだけ。そこに私の自我は存在していない。というか出してはマズい。

 美味しいお茶会とお菓子を食べれられるのはいいが、ただただ退屈だった。
 と、そんなことを考えていたら話を聞き逃していた。

「──マさん、エマさん。聞いていますの?」
「え? あ、はい! 聞いています!」

 私が慌てて返事をすると取り巻きの一人が補足してくれた。

「エマさんもクレア様の最近の殿下への擦り寄りは酷いと思いますよね?」
「あはは……」

 クレア様とはクレア・アワード公爵令嬢のことだ。
 マーガレットの婚約者であるはずのルーク王子が絶賛片思い中の相手だ。

 誰も近寄らせない孤高さと、男女問わず冷たい態度をとることから『氷』と喩えられている。

 婚約者を寝取られそうになっているマーガレットは当然クレアのことを目の敵にしていて、同じクラスということもあり、しばしば衝突している。

 肯定も否定もしない煮え切らない返事に、マーガレットは黒髪をくるくると弄りながら顔をしかめた。

「貴女最近──」

 ちょうどその時。
 食堂に入ってきた二人の人物を見て、マーガレットは固まった。

(あ、これは……)

 マーガレットの反応を見て私は誰だったのか予想がついた。こういう反応をするのは一人しかいない。

 クレア・アワード。
 さっきまで話していた人物が食堂へとやって来た。

 ──それもルーク王子と並んで。

しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

婚約破棄でも構いませんが国が滅びますよ?

亜綺羅もも
恋愛
シルビア・マックイーナは神によって選ばれた聖女であった。 ソルディッチという国は、代々国王が聖女を娶ることによって存続を約束された国だ。 だがシェイク・ソルディッチはシルビアという婚約者を捨て、ヒメラルダという美女と結婚すると言い出した。 シルビアは別段気にするような素振りも見せず、シェイクの婚約破棄を受け入れる。 それはソルディッチの終わりの始まりであった。 それを知っているシルビアはソルディッチを離れ、アールモンドという国に流れ着く。 そこで出会った、アレン・アールモンドと恋に落ちる。 ※完結保証

【完結】ご安心を、問題ありません。

るるらら
恋愛
婚約破棄されてしまった。 はい、何も問題ありません。 ------------ 公爵家の娘さんと王子様の話。 オマケ以降は旦那さんとの話。

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

王太子から婚約破棄……さぁ始まりました! 制限時間は1時間 皆様……今までの恨みを晴らす時です!

Ryo-k
恋愛
王太子が婚約破棄したので、1時間限定でボコボコにできるわ♪ ……今までの鬱憤、晴らして差し上げましょう!!

処理中です...