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 私はメアリー・キングスレー。伯爵令嬢だ。
 私はこの国の公爵家の長男であるロビン・ウィンターと婚約している。

 この婚約が決まったのは私が小さな頃で、物心つく前から婚約は決まっていた。

 政略的な婚約。
 私の意思は勿論入っていないが、これも貴族に生まれた宿命なので、そこまで気にしていない。

 婚約してからずっと、私はロビンに尽してきた。

 勉学では常に優秀な成績を取り、礼儀作法なども完璧にした。

 公爵家という格上の貴族に嫁ぐ以上、教育は厳しく行われた。

 成長して通うことになった学園ではロビンを支えることに腐心した。

 ロビンはこの国の王子であるルイス・アクランド第一王子の側近であり、ルイス王子が所属する生徒会に在籍していた。

 私はそこでロビンの負担を軽減するために業務を手伝っていた。

 ただでさえ公爵家の長男は忙しい。
 私が手伝わなければいつかロビンは倒れてしまうだろう。

 だから、私はロビンの仕事を肩代わりする形で手伝っていた。
 勿論、私が仕事をしたのは秘密なので公にはロビンの功績となっている。

 しかし学園に通い始めてから数年後、ロビンはついに仕事に全く手を付けずに遊ぶようになり、私へ全て任せるようになった。

 それでも、私は文句を言わずロビンに尽くし続けていた。

 それがいつかロビンのため、公爵家と伯爵家の未来に繋がるはずだ、と考えていたからだ。

 ──しかし。

「僕この女性と愛し合っているんだ! 真実の愛なんだ!」

 ある日。

 私はロビンに突然公爵家へと呼び出された。
 生徒会の仕事で疲れていたのだが、緊急の用事だと言われたので私は重い体を起こして向かった。

 だが、ロビンに告げられたのはその言葉だった。

「え……?」

「僕はこの女性を正妻にすることにしたんだ」

 ロビンは隣の女性を紹介した。
 デイジー、と言う名前で、名字の無い平民だった。

 彼女とはウィンター公爵領で出会い、数回会ううちに恋に落ちてしまったらしい。

 そんなことを私に照れながら言うロビンを、私は理解できなかった。

 私は尽してきた。十年以上。

 それはロビンも知っているはずだ。
 どれだけ私が心を砕いてロビンを支えてきたかを。

 なのに何故、こんなことが言えるのだろう……?

「……なぜ、ですか?」

 私は平静を装ってロビンに質問する。

「君は馬鹿か? 今言ったろう。僕達は愛し合っているんだ」

 ロビンは馬鹿にしたように笑って、そう言った。

「では、私はどうなるのでしょうか」

「は? 君は妾にするよ。それでいいだろう?」

『妾にするよ』

 ロビンは躊躇うことなく。
 私の人生も、気持ちも踏みにじっていることにも気づかず。
 平然と。

 私にそう告げた。
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