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20話
しおりを挟む次の日。
イングランド公爵家の屋敷へ、とある客がやって来た。
自室の扉がコンコン、とノックされる。
「私だ」
父の声だ。
私は部屋へ入るように促す。
「どうぞ」
部屋へ入ってきた父の表情は少し強ばっていて、何かトラブルが起きたのだと私は理解した。
「……お前に客人が来ている。アレク王子だ」
「…………そうですか」
「恐らく、自ら説得に来たのだろう。王妃教育が半端な婚約者をあてがわれて困るのは彼だからな。どうするアメリア、体調不良を理由に帰っていただいても構わないが」
父の提案を私は首を振って否定した。
「いえ。ここで帰ってもらっても、今度また改めてお会いしなければなりません。それなら、今お話する方がいいでしょう」
「分かった。……アメリア、何度も言うが、今回は断っても構わないんだぞ」
「はい。もとからそのつもりです」
父は私の言葉に頷くと、アレク王子の待つ部屋へと私を連れていった。
ガチャリと扉が開けられる。
ソファにはアレク王子が座っていた。
サイモンとは違う、金色の髪に青い瞳。
アレク王子は入ってきた私に気づいてソファから立ち上がった。
「アメリア嬢」
「こんにちは。アレク王子。先日は助けていただいてありがとうございました」
私は先日、サイモンの暴力から助けてもらったお礼を述べた。
「いや、いいんだ。理不尽な暴力にさらされている人間を助けるのは人として当然だ」
アレク王子はサイモンとは違い、とても優しい物腰で、傲慢さなど微塵も感じられなかった。
挨拶も終わり、私たちは本題に入った。
「これはお願いなんだが……どうか私の婚約者になって欲しい」
やっぱり、アレク王子は婚約者になってもらうようために来たらしい。
「申し訳ありません」
私は頭を下げ丁重に断る。
「理由を聞いてもいいだろうか?」
アレク王子もどんな反応をされるかは予想していたようで、とくに驚いた様子もなく訳を聞いてくる。
「……もう疲れたんです」
「なるほど。それは仕方がありませんね」
本来なら王子との婚約を断るのにこんな理由で許されるはずがないが、私の今までの人生や事情を知っているアレク王子は理解を示してくれた。
少し残念そうに笑って私の回答を受け取る。
「それでは、今度は私が頑張らせていただきます」
アレク王子はそう言って去っていった。
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