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1話
しおりを挟むその衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
◯
時刻は空が真っ暗になった夜。
アイクは屋敷へと帰ってきた。
「ただいま、メアリー」
アイクは帰ってくると私に挨拶をした。
そして私の元へと来ると、頭を優しく撫でながら穏やかな表情で話しかけてきた。
自分では見えないけれど、私はきっととても冷たい表情だったはずだ。
「今日は疲れたよ。少し仕事が忙しくてね」
丸っきりのウソだ。
だって、仕事をなんてせずジェーンと歩いているのを私は見たのだから。
私は少し問いかけた。
「どんな仕事だったの?」
「ああ、えっと、商売の話をちょっとね。ルーム商会から新しいのを贔屓してくれ、って」
そうしてアイクはウソを重ねていく。
彼は私にはまだ浮気がバレていないと思っているのだろう。
最後に、一番重要な質問を。
私はアイクの目を見つめた。
「アイクは私のことを愛してる?」
アイクはニコリと笑った。
仮面のような温度のない、冷たい笑顔だった。
「もちろん、愛しているよ」
そしてアイクは、息をするように嘘を吐いた。
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