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1話

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 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
 空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。

 私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。

 街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
 見知った女性と一緒に。
 私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。

「え?」

 思わず私は声をあげた。
 なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
 二人に接点は無いはずだ。

 会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。

 それが、何故?

 ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。

 結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。

 私の胸の内に不安が湧いてくる。

(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)

 その瞬間。
 二人は手を繋いで。
 キスをした。

「──」

 言葉にならない声が漏れた。

 胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。

 ──アイクは浮気していた。





 時刻は空が真っ暗になった夜。
 アイクは屋敷へと帰ってきた。

「ただいま、メアリー」

 アイクは帰ってくると私に挨拶をした。
 そして私の元へと来ると、頭を優しく撫でながら穏やかな表情で話しかけてきた。

 自分では見えないけれど、私はきっととても冷たい表情だったはずだ。

「今日は疲れたよ。少し仕事が忙しくてね」

 丸っきりのウソだ。
 だって、仕事をなんてせずジェーンと歩いているのを私は見たのだから。
 私は少し問いかけた。

「どんな仕事だったの?」
「ああ、えっと、商売の話をちょっとね。ルーム商会から新しいのを贔屓してくれ、って」

 そうしてアイクはウソを重ねていく。
 彼は私にはまだ浮気がバレていないと思っているのだろう。

 最後に、一番重要な質問を。
 私はアイクの目を見つめた。

「アイクは私のことを愛してる?」

 アイクはニコリと笑った。
 仮面のような温度のない、冷たい笑顔だった。

「もちろん、愛しているよ」

 そしてアイクは、息をするように嘘を吐いた。
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