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11話

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 俺は見ているものが信じられなかった。
 突然アメリアから翼が生えたかと思ったら浮かび上がり、頭の上には光る輪までできた。

「なんだあれ……」

 俺が唖然としていると、急に地面が揺れ始めた。

「な、なんだ!」

 俺は乗っている馬に必死にしがみついて揺れが収まるのを待つ。

「あれを見ろ!」

 誰かが叫んだ。
 指さされている方向を見ると、地面に亀裂が入っていた。
 そしてその亀裂はどんどんと広がっていく。

「うわぁぁぁぁっ!」

「こっちに来るなぁ!」

 兵士たちは悲鳴をあげてその亀裂を避けた。
 しかしそれは無駄だった。

『割れろ』

 アメリアが一言そう言うと轟音と共に地面が裂けた。

「なんだよこれ!」

「た、助けっ!」

 兵士が断末魔をあげながら裂け目へと落ちていく。

 大地の崩れが収まった時、俺はその場にへたり込んでいた。

「はぁっ……! はぁっ……!」

 俺は上手く息が出来なかった。
 亀裂は俺の目の前まで来ていたからだ。
 目の前で落ちていった馬や兵士が目に焼き付いている。
 これに飲まれていたらどうなっていか分からない。
 もしかしたら命を落としていたのかもしれないと思うと足が震えた。

 俺は慌てて立ち上がると、近くにいた馬に飛び乗った。
 だが側近はそれに気づいて引き留めようとする。

「レオ様! どこへゆかれるのですか!」

「こんな危険なところにいられるか! 全軍で突撃して俺が逃げる時間を稼げ!」

「そんな……!」

 側近は絶望的な表情をするが、俺は構わなかった。

「これは命令だ! 従わない奴は死刑にする!」

 それだけ言い残して俺は馬を走らせた。
 後ろでは側近が「全軍突撃!」と命令を発しているのが聞こえる。
 俺は一目散に王宮を目指した。
 自分が生き残るために。


★★★


「は? 全軍突撃?」

 私は聞こえてきた理解不能な命令に眉をひそめた。
 今の状況を見ればそんなことは悪手だとわかっているはずなのに。
 ふと、遠くにレオが馬に乗って別方向へと向かっているのを見つけた。

「なるほど」

 私は全てを理解した。
 レオは逃げたのだ。この場の全てを投げ出して。

 突撃命令を出された兵士たちが私の元へと突っ込んでくる。
 あのクソ皇太子が逃げるための時間を稼ぐために。

「本当にクズですね」

 私はレオを心底軽蔑した。

「では、罪なき兵士の皆さんだけは、もう少し優しい方法で無力化しましょう」

 私は翼をしまうと大地へと降り立った。
 拳を握りしめ、虚空を殴る。

 十メートルの高さの衝撃波が向かってくる兵士たちを吹き飛ばした。
 兵士が空高く舞い上がる。

「優しく、拳で相手して差し上げます」
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みんなの感想(18件)

yuzuha
2022.01.28 yuzuha
ネタバレ含む
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壬玄風
2021.06.05 壬玄風
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どりょさん
2021.06.05 どりょさん
ネタバレ含む
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