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9話

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「それでは出陣する!」

 俺が命令すると、俺を乗せた馬が歩き出し、それの合わせて集めた軍隊が動き始めた。
 俺はその大数の人間が一斉に動く壮観な眺めに感嘆の息を漏らした。

 この俺を乗せている馬には豪華な装飾がつけられ、そして乗り心地を良くするための工夫が多数施されている。
 馬に揺られながら、俺は側に控えている部下からワインを受け取り、一気に飲み干した。

 喉を通っていく冷たいワインの感覚が、俺が支配者であることを実感する。

「はは! なんという全能感! この人数なら絶対にアイツを殺せるな!」

 見渡す限りにいる、数十万人いる軍隊の先頭を歩く俺は正に王の中の王に見えるだろう。


★★★


 その頃、街は混乱に包まれていた。

「なぁ、軍の奴らはどこに行ったんだ?」

「わからねぇ、昨日の内に消えちまった!」

「どうするんだ! このままじゃ、魔物から守ってくれる奴がいねぇぞ!」

「俺達魔物に食い殺されちまうぞ!」

 街の住人たちは突然消えた軍に怯え、不安の声を上げていた。
 その時、ふと一人がとある方向を指差した。

「お、おい、あれ見ろ!」

「え? ──ま、魔物だ!」

「大量にやってくるぞ!」

 指差した方向には、城壁を超えて大量の魔物が街に迫ってきているのが見えていた。
 この国は聖女による結界に包まれていたため、城壁が存在しない。
 このままでは、魔物は容易く街の中に入って来てしまうだろう。

 本来あり得ないはずの光景に、街の住人は悲鳴をあげた。

「なんでだ! 魔物は軍がおさえているはずだろ!」

「絶対に冒険者だけじゃ防げないぞ!」

「みんな今すぐ逃げろ!」

「けど、逃げるってどこにだよ!」

 街の住人は混乱の極みに陥り、次第にお互いに口々に大声で叫びだす。

 しかし魔物は目の前まで迫ってきている。
 街の中へ入る、となった時、空から女性の声が響いた。

『神よ、この国の者たちをお守りください』

 女性の声が響いた瞬間、国全体に淡く光る結界が張られた。
 その結界は街に入ろうと突進した魔物を阻み、跳ね返す。

 それを見て街の住人は歓声をあげる。

「せ、聖女様だ!」

「聖女様が俺達を助けてくれたんだ!」

「ああ! ありがとうございます!」

 その後も魔物が何度も突進して結界を破ろうとするがびくともせず、決して破られることはなかった。


「あ~、疲れました……」

 私はその場にへたり込んだ。
 結局翌日までかかってしまった。

「けど、間に合って良かったです」

 本当に間一髪だった。
 少しでも遅れていたら、街の住人に被害が出ていたかもしれない。

「本当に救いようがないですね」

 国民を危険に晒す皇太子。
 顔面を殴り飛ばしてやりたいぐらいだ。

「絶対に許しません」
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