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8話

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「せ、精鋭部隊が全滅だと……!」

 文官からの報告に俺は驚愕していた。
 なぜなら、絶対に倒せると確信していた戦力が全て全滅させられたのだ。

「はい、討伐に向かったものの、規格外の魔法によって全員無力化されたとのことです。全員怪我はありますが、命に別状はありません」

 文官が悠長にそう報告してくるが、俺はそんな気が気ではなかった。、

「そんなことはどうでもいい! 精鋭数百人を殺す訳でもなく、無力化だと?! バケモノかあいつは!」

「それが、どうやら調べたところによるとアメリア・ガーデンは元Sランク冒険者だそうです」

「Sランク冒険者?!」

 超一流のAランク冒険者を超えたその先、Sランク冒険者。
 『生ける伝説』とも言われるSランク冒険者が、あの無能の聖女だと……?!
 精鋭数百人にでは相手にならないのも当然だ。

「全軍を聖女を討伐にまわす! そうでもしなければアイツを倒せない!」

「し、しかしそれは!」

 全軍を聖女討伐にまわすとなると、今溢れる魔物に対処する人間は冒険者以外いなくなる。もちろん人手は足りるわけがない。

 しかしそんなこと知ったとか!
 俺は全力であの大罪人を殺さねばならない。
 このままでは全ての罪が俺になすりつけられてしまう。

「考え直してください! 今そんなことをすればモンスターに国を蹂躙されて、国民に多数の犠牲が出ます!」

「うるさい! この俺の命令だ! 逆らうなら反逆罪で家族諸共処刑するぞ!」

「わか、りました……」

「そして俺も出て自ら指揮を取る! もうお前らに任せてはおけん! 自分の手でしっかりと始末してやる!」


★★★


「正気ですか……全軍を私にまわせば国を守れませんよ……?」

 私は執務室を魔法で覗き見ながら、クロードの蛮行に唖然としていた。
 軍の目的は国民を脅威から守ること。
 それすら放棄するなんて、完全に私利私欲に呑まれている。
 執務者として完全に間違っている。

「どうしましょうか……」

 少し考えて、「しょうがない」と顔を上げた。

「本来はお灸を据えるためだったのですが、ここまでくればやむを得ないですね。結界を張り直しましょう」

 私が国を出たことで消滅した結界を張り直すことに決めた。

(と、言っても出来ることは限りがありますが)

 床に魔法陣を描き、その真ん中に座る。
 そして聖句を唱えて、結界を作っていく。

(やはりちゃんとした設備で儀式を行わないと時間がかかりますね。間に合うかどうか……)

「ぐっ……」

 次第に体中に痛みが走り始めた。
 結界を張るには膨大な魔力がいる。そのように大量の魔力使うという無茶をしているので、体に大きな負担がかかるのだ。
 加えて、今日は大きな魔法を使ったから特に痛みが強い。

 そして、この痛みは結界が張り終わるまで続く。
 恐らく半日はかかる。それまで持ち堪えなければならない。

(間に合え……!)

 私は必死に祈りながら結界を構築していった。
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