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5話

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 翌朝、俺は執務室に入るなり、昨日考えたとある策を言った。

「元聖女の大罪人、アメリア・ガーデンの討伐命令を出す!」

 俺の突然の宣言に、部下たちは困惑している様子だった。

「え? それは一体どういう……」

「これまでのモンスターの増加や医療の逼迫は全て聖女が行ったこの国に対する復讐だ。自分が無能でクビを切られたくせにな」

 昨日考えた結果、こんな状況になっているのはあの聖女の仕業に違いない、という結論に至った。
 よく考えてみればすぐに分かることだった。
 あの聖女を追放してからこの状況は始まったのだ。
 そうだ、そうに違いない。
 全部あいつが悪いんだ。

「よって、これよりあいつを賞金首とし、討伐命令を出す」

 俺は適当な紙にさらさらとアメリア・ガーデンを賞金首とする命令を書いていく。

「賞金首は一千万ベルロ。これの内容の依頼書を冒険者ギルドに配れ。すぐにあいつの首が持ってこられるだろう」

(くっくっくっ、これでアイツに国内の不満を全てアイツのせいになる! ま、元々アイツが原因なんだ。何もおかしなことはないだろう!)

 こうして聖女アメリア・ガーデンの討伐依頼は国内の冒険者ギルドへと広まり、

★★★


「うーん、暇ですね」

 私、アメリア・ガーデンは草原をうろうろとしていた。
 国を追放されてから約一ヶ月、私はやる事が無く暇だった。

「そろそろのはずなんですけど……おや」

 ぼんやりと空を眺めていたところ、誰かに声をかけられた。
 振り返ると、数人の男の冒険者たちが下卑た顔で私を見ていた。

「あんたが聖女のアメリア・ガーデンかい?」

「ほら、いただろ? 前に草原で見かけた時はアまさかと思ったが、俺の目に狂いはなかったのさ」

「へっ、結構かわいいじゃねぇか、こいつ俺達で可愛がっても大丈夫なんだろ?」

 男たちは私の体を足先から頭までじっくりとなめ回すように見る。

「ああ、首さえもってくりゃ後はいいらしい」

「ひゅーっ! 最高じゃねぇか!」

「じゃ、聖女さん。大人しくしてりゃ生かして連れて行ってやるぜ」

 男のうちの一人の、リーダーと思わしき男が近づいてきた。

「はぁ……なんだか王宮を追放された時のことを思い出しちゃいましたね」

 私は深くため息をついた。

「不快になったので、悪いですがストレス発散に付き合ってもらいます」

「は? 何言って──」

 私が叩き込んだ拳によって、男が吹き飛ばされた。男は地面に叩きつけられ、ピクピクと痙攣する。
 他の冒険者たちはそれを唖然とした様子で眺めていた。

「聖女がか弱いと思っていましたか? 残念護身術ぐらいは身につけているのですよ」

「くそっ! こっちは多勢だ! 複数で囲んじまえば多少強くても関係ねぇ!」

「ふざけたことしやがって! 体に教えこんでやる!」

 男たちが武器を手に取り、私へと向かってくる。
 私はそれを余裕の表情で見ていた。

「追放された時は疲れていて力が出ませんでしたが、今は違うということを教えて差し上げましょう」

 数分後、地面にはボコボコに殴られた冒険者たちが転がっていた。
 どう見てもオーバーキルなのは、命乞いをしても私が構わず殴っていたからだ。
 聖女である私を犯そうとしたのだ。これくらいの罰は軽い方だろう。
 それに私が本気を出していたら命は無い。

「これでCランク冒険者ですか。相手にすらなりませんでしたね。ま、スッキリしましたが」

 男たちの懐から抜き取った冒険者カードを見る。
 街に戻ったときに衛兵に差し出す為だ。

「あ、お金はそこそこ……」

 財布にはそこそこのお金が入っていた。
 それを私は財布ごと懐に入れた。

 あ、これはお布施ということで。

「さて、これからですね」

 私はのびをして空を見上げる。
 あのバカ皇太子が次お行動を起こすのに、そう時間はかからないはずだ。

「クロード・ベルト。絶対に許しませんからね」

 私の「役立たず」と理不尽に追放した、あのバカ皇太子を引きずり出し、罪を認めさせて償わせる。
 私は復讐の炎に燃えて、そう固く決心した。
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