上 下
5 / 14

5話

しおりを挟む

 時刻は昼になった。
 ロバートたちはあの後は特に何もすることは無く、私は教室から離れることはなかったので被害は拡大していない。
 恐らく教科書を引き裂き、ペンダントを壊したことで一時の怒りは収まったのだろう。

 昼までには学園中に今朝の出来事は広まったようで、周囲の生徒は私を遠巻きに見ていて何か干渉しようとはしてこなくなった。
 王族や公爵家の問題に手を突っ込みたくないのだろう。

 ロバートたち三人が私へしたことを見ているならばそれが懸命だ。
 冤罪に私刑。
 もし彼らの機嫌を損なったら何をされるか分からない。

 私は今朝ペンダントを壊された後、別に家へと避難しても構わなかった。
 しかしロバートたちに反撃するための材料を整えるために学園にまだ残っていた。

「さて、お昼の時間だけれど……」

 できればロバートたち三人と遭遇するのを避けるために教室から出て行きたくはないが、私はいつも学園の食堂で昼食をとるため、お弁当を持ってきていないのだ。

 そのため食堂へと行かねばならないのだが、懸念点が一つある。

 ロバートたち三人の内の一人、ドミニクも同じく食堂を利用しているのだ。
 朝から私と離れようとしない三人の内の一人が私の不安を察したかのように答えた。

「大丈夫ですアリス様。相手は一人です。もしものことがあっても私たちがついているので人数で有利です」
「そうね……」

 ドミニクは武術は不得手だと聞く。
 加えて私たちは四人もいるので、ドミニクがわざわざしかけてくることも無いだろう。

「では、行きましょうか」

 私たちは食堂へと向かうことにした。
 四人で教室を出て廊下を歩く。
 そして食堂へとついた時──

「おっと、待ってください」

 ドミニクが、食堂の前で私たちを待ち伏せしていた。

 ドミニクの顔を見て、私の中でぐつぐつと煮えたぎるような怒りが生まれた。
 ペンダントを壊された恨みだ。

 私は不機嫌なことを隠しもせずに尋ねる。

「……何でしょうか」
「貴女がこの学園の施設を使用することは禁止されています」
「はい?」
「おや、理解できませんでしたか。ですから、貴女は食堂を利用出来ないんですよ」

 ドミニクは私を小馬鹿にしたように笑う。
 それに対して三人の内の一人が激怒した。

「それはおかしいです! なんの権限があって──」
「王族命令だ」
「ロバート王子……」

 途中で声が挟まれる。
 声の方向を見るとロバートが立っていた。
 ロバートは腕を組んで尊大に私たちを見下ろしている。

「俺の命令だ。お前はこの学園の施設を利用することを禁止する」
「王族の権力を無闇矢鱈に振りかざす、と?」
「お前のような罪人に対する懲罰だ」
「おうおう、なんだ。罪人がいるのか? それならオレがとっ捕まえてやらねぇとなぁ?」

 今度はレオが出てきた。
 レオは肩に鞘に入った剣を担いでいた。
 学園に武器は持ち込み禁止のはずなので、刃のない模造剣であるはずだが、あれで殴られれば大怪我は免れないだろう。

 そして女性相手にそんな暴力を躊躇しない人物であることも今朝の段階で分かっている。

 ドミニク、ロバート、レオは私たちを囲むように立っていた。

 そしてじりじりと、距離を詰め始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます

七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」 「では、そのスキルはお返し頂きます」  殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。 (※別の場所で公開していた話を手直ししています)

【完結】婚約破棄にて奴隷生活から解放されたので、もう貴方の面倒は見ませんよ?

かのん
恋愛
 ℌot ランキング乗ることができました! ありがとうございます!  婚約相手から奴隷のような扱いを受けていた伯爵令嬢のミリー。第二王子の婚約破棄の流れで、大嫌いな婚約者のエレンから婚約破棄を言い渡される。  婚約者という奴隷生活からの解放に、ミリーは歓喜した。その上、憧れの存在であるトーマス公爵に助けられて~。  婚約破棄によって奴隷生活から解放されたミリーはもう、元婚約者の面倒はみません!  4月1日より毎日更新していきます。およそ、十何話で完結予定。内容はないので、それでも良い方は読んでいただけたら嬉しいです。   作者 かのん

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

せっかく家の借金を返したのに、妹に婚約者を奪われて追放されました。でも、気にしなくていいみたいです。私には頼れる公爵様がいらっしゃいますから

甘海そら
恋愛
ヤルス伯爵家の長女、セリアには商才があった。 であれば、ヤルス家の借金を見事に返済し、いよいよ婚礼を間近にする。 だが、 「セリア。君には悪いと思っているが、私は運命の人を見つけたのだよ」  婚約者であるはずのクワイフからそう告げられる。  そのクワイフの隣には、妹であるヨカが目を細めて笑っていた。    気がつけば、セリアは全てを失っていた。  今までの功績は何故か妹のものになり、婚約者もまた妹のものとなった。  さらには、あらぬ悪名を着せられ、屋敷から追放される憂き目にも会う。  失意のどん底に陥ることになる。  ただ、そんな時だった。  セリアの目の前に、かつての親友が現れた。    大国シュリナの雄。  ユーガルド公爵家が当主、ケネス・トルゴー。  彼が仏頂面で手を差し伸べてくれば、彼女の運命は大きく変化していく。

「つまらない女」を捨ててやったつもりの王子様

七辻ゆゆ
恋愛
「父上! 俺は、あんなつまらない女とは結婚できません!」 婚約は解消になった。相手側からも、王子との相性を不安視して、解消の打診が行われていたのである。 王子はまだ「選ばれなかった」ことに気づいていない。

婚約破棄でいいですよ、愛なんてないので。

ララ
恋愛
学園の卒業を記念するパーティーで、婚約者は私に婚約破棄を叫ぶ。 杜撰な理由に呆れかえる私は愛を無くし、婚約破棄を了承するが……

処理中です...