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3話

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「最っ、高だわ……」

 翌日、私は自分の部屋で、姿鏡に写る自分に見惚れていた。
 いつもの制服を着ているが、見た目は全く別のものに変わっていた。
 茶色に染めていた髪は金色に。伸ばしていた前髪も切り、曲がっていた背も張る。
 私は前とは別人になっていた。

 本当の自分になれたことの喜びを噛みしめる。
 これからはおしゃれも出来るし、自由に話すことも出来る。

(ノーラン様、婚約破棄してくれてありがとう……!)

 私は心のなかでノーランに向けて感謝をした。

「お嬢様、そろそろ出発のお時間ですよ」

 メイドがコンコンと扉をノックして入って来た。

「あ、そうね。今行くわ」

 久しぶりの自分の姿にはしゃいで、学園に行くことをうっかり忘れていた。
 私は用意をして屋敷の前にある馬車へと向かった。

 馬車に乗り込むと御者の人が挨拶をした。

「おやお嬢様、今日はいつもと違いますね。何だか昔に戻ったようだ」

「ええ、ノーラン様との婚約を解消するから、今日からは元の私に戻れるのよ」

「それはそれは、ノーラン様はもったいないことをしたのではないでしょうか」

 そんなふうに御者の人と話していると、すぐに学園へと着いた。

「お嬢様、到着しました」

「ありがとう」

 御者の人にお礼を言って馬車から下りる。
 歩いていると、視線が集まってきているのが分かった。
 きっと昨日とは違う私を見て驚いているのだろう。
 私は前方にノーランが歩いているのを発見した。
 丁度いい。ここで

「あ、ごきげんようノーラン様!」

 私は元気よく挨拶する。
 今までは言いつけで出来なかったが、今なら出来る。
 ノーランは振り向くと一瞬誰だか分からない、といった表情になった。
 しかし、すぐに私を指差して震え始めた。
 寒いのだろうか。

「き、君はもしかして……」

「はい! ナタリーです!」

 私はその場でくるくると身体を動かして、どこかおかしなところがないか確認する。

「どうですかノーラン様! 私かわいくなったと思いませんか? 今までノーラン様の言いつけを守って地味にしていましたが、もう婚約破棄するなら、言いつけを守る必要はないかなって思って……。大丈夫ですよね?」

 言っている途中で不安になってきたので、私は念の為に確認をとった。
 しかしノーランは俯いたまま「嘘だろ……こんなに美人だったなんて……」とか、意味の分からないことを呟いている。

「え、えっとノーラン様……? あ、これ! 持ってきました!」

 私はおかしな挙動を見せるノーランが不思議だったが、ノーランに挨拶した目的を思い出して、サインが書かれている紙を差し出した。

「これで婚約は解消ですよね! いやー、私達二人、これからはお互いの道を歩いていきましょう!」

 一応婚約関係だったので、私はノーランに別れの挨拶のようなものをした。
 しかし、顔をあげたノーランは、とんでもないことを言った。

「……い、いや、婚約破棄ってなんのことだ? 僕はそんな事言ってないぞ」

「……え?」

 ハラリ、と手に持っていた紙が落ちる。
 な、なんで……!?
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