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 私、エリカ・オーブリー伯爵令嬢がサミエル・ドワーズ伯爵令息と婚約したのは私とサミエルが十歳になる頃だった。

 婚約した当初、サミエルは優しかった。

 見た目も良く、頭も賢かったサミエルは私の自慢の婚約者だった。

 しかし学園に入り、伯爵家でありながら異例の王子の側近になった途端、サミエルは豹変した。

 一言で表すなら、サミエルは傲慢になった。
 サミエルは自分を「優秀な人間である」と思い始めたのだ。

 初めの頃は、ただ「俺は優秀な人間だ」とか「選ばれた人間なんだ」だとか、自画自賛をしているだけだった。

 だが時間が経つにつれ、サミエルの驕りは酷くなっていった。

 私に対して「お前はノロマだ」とか、「愚図が婚約してもらえるだけでも感謝しろ」なんて暴言を吐くようになった。



 サミエルは生徒会に所属しており、生徒会長を努めている王子と一緒に仕事をこなしていた。

 しかし、ある日のこと。

「エリカ、これをやってくれ」

「これは……生徒会のお仕事ですよね」

 私の手に渡されたのは生徒会の書類だった。

「申し訳ありませんが、出来ません」

 私は断った。

 私が仕事をしなければならない理由がないし、そもそも生徒会の書類を勝手に他人に見せるのは情報の保護の観点からしてはいけないことだ。

「はぁ……面倒くさいな! それぐらいやってもいいだろ! 俺は側近として忙しいんだ!」

 サミエルは呆れたようにため息をつき、声に苛立ちを含めて怒鳴った。

「しかし……」

「口答えするな! これぐらいやれ!」

 サミエルはそう言ったが、私は知っている。

 サミエルは全く忙しくないことを。
 というか、側近の仕事自体、生徒会の物しかない。

 つまりこの仕事を任せる目的はサミエルが自分の仕事を減らして楽をするためだ。

 しかし私とサミエルの家は婚約を結んたことで一心同体。
 サミエルの評判が悪くなれば、私だけではなく、私の家まで被害を被る。

「……分かりました」

 だから、私は我慢してその仕事を請け負うしかなかった。

「ふん、最初からそう言っておけばいいんだ。この愚図が」

 サミエルは冷たい目を浴びせて立ち去る。

 その日から、サミエルの生徒会の仕事は全て私に任されるようになった。

 私が仕事を必死にこなしている間、サミエルは街に出て遊び呆けていた。
 その癖仕事だけはきっちりと回収して自分の手柄にしていた。

 そんな理不尽にさらされながら、私はしばらくの間耐え続けていた。

 しかし。

「エリカ、お前との婚約は破棄する」

 サミエルはある日、急に私に婚約破棄を叩きつけてきた。
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