愛する婚約者の君へ。

水垣するめ

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5話

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 街中はスタンピードが起こったにより、騒然としていた。
 最北端に兵士として送られている者の家族や、北部からスタンピードにより魔物の大群が押し寄せて来るのではないか、と考えている人間が街中を走り回っていた。

 人間の軍隊など大群で押し潰して、全てを飲み込んでしまう災害。それがスタンピードなのだ。

「はぁっ……! はぁっ……!」

 私は走っていた。
 雨が降っている中をなりふり構わず、走る。
 目的地は役所。

 レイの安否を確認するためだ。

(嘘だ、ウソだウソだっ……!)

 不安に押しつぶされそうになり、目から涙が溢れてくる。
 私はそれを拭いながら走る。
 頭の中に浮かび上がる最悪の想像を必死に否定する。

 大丈夫な筈だ。
 だってレイは後方に勤務しているのだから。
 きっとスタンピードが起こってもすぐに逃げることが出来たはずだ。

 絶対にそうだ。

 役所にはすでに大勢の人が押し寄せていた。
 家族が北部にいる者たちだ。

 私はその人垣をかき分けて進む。
 皆必死だった。
 まさしく家族の生死がかかっているのだから。

「レイは! レイ・ライランスは生きていますか!」
「只今、情報が入ってきていなくて……」

 しかし受付からは全く情報が得られない。
 私は絶望した。
 レイのことが心配で堪らないというのに、このまま待つことしか出来ないなんて。

「お願いします! 少しの情報でいいから! 分かっていることを教えてください!」
「そう言われましても」

 役所へと殺到した私を含む人は、情報が入ってくればすぐに伝える、と言われて、一度強制的に家に返されることとなった。

「レイ……お願い……生きていて……っ!」

 私は手を組んで祈りながらレイの無事を願う。
 使用人から作られた夕食も、全く口に入らなかった。

 そして一週間が経過した。
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