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8話

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「ぐっ……!」

 因果応報ともいえる自らの台詞をそっくりそのまま返されて、ジョンはたじろぐ。

 その時、ヘレンがヒステリックに叫び始めた。

「ね、ねぇ! 嘘よね!? 財産の半分なんて、そんなの払えるわけないわ!」

 そんなヘレンの言葉に裁判官は冷たい声で素っ気なく返答をする。

「いいえ、嘘ではありません。裁判官である私が嘘をついたところで何のメリットもありません。すべて事実です。それに私が提示したのは相場ですから、詳細な判決が出ればもっと慰謝料が高くなる可能性があります」

「そ、そんな……」

 淡々と突きつけられる事実に、ヘレンは絶望したように膝をついた。

 これでようやく大人しくなったか、とヘレンのヒステリックな叫びを鬱陶しく感じていた私は、ヘレンが落ち着いたことに安堵した。

 しかし次の瞬間、ヘレンはとんでもないことを言い始めた。

「お願い! 私は知らなかったの! コイツが浮気してるなんて全く、これっぽっちも知らなかったの!」

「は?」

「なっ!? ヘレン!?」

 ヘレンはジョンを指差して叫ぶ。

 私は心の中でヘレンの思惑を理解した。

 ヘレンは恐らくジョンが妻帯者であったことを知らない、と言い張り慰謝料から逃れようとしているのだろう。

 最も、そんな稚拙な企みが通じるはずもない。

「はぁ……急に何を言い出すかと思えば、無駄ですよ。今更知らなかったフリをしても」

「え?」

「役所に行けばクラーク伯爵が結婚していることも、相手もすぐにわかります。貴族の情報は公開されていますからね。つまり、知らなかったのはあなたの怠慢であり、慰謝料が無くなる理由にはなりません」

「……嘘よ。そんなの嘘! ねぇ、お願い! 私だけは、私だけは助けてちょうだい! 本当に知らなかったの! なんなら、この男と今すぐに別れたっていいわ! だから、それだけは勘弁して!」

「な、何を言い出すんだヘレン!」

「うるさい! 全部あんたのせいよ! 私は幸せにならないといけないの! こんな借金を背負うなんて、絶対に嫌!」

 ヘレンは頭を抱え、涙を流していた。現実を受け入れたくないようだ。

 一方、ジョンはヘレンに裏切られ、憎悪の熱を滾らせていた。
 憎しみのこもった瞳でヘレンを睨んでいる。

「……私の手紙の中に妻がいることを記しているものがあります」

「……ジョン?」

 その言葉を発したのはジョンだった。
 ヘレンに裏切られたジョンは、彼女を地獄に落とす決意をしたらしい。

 ヘレンはジョンの言葉の意味を理解して涙を流しながら、ジョンへ怒声をあげる。

「あんた! なんてことするのよ! ふざけないで!」

「お前こそふざけるな! 女のくせに私を裏切るなんて!」

 ヘレンとジョンは叫び合う。
 部屋の中は地獄のような空気になっていた。

 私はそれを満足しながら眺めていた。
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