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4話

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 そして次の日。
 すぐにでも離婚の手続きがしたいジョンが願ったため、裁判官を屋敷へと呼んできた。

 屋敷で離婚をしたあとの、元々家どうしで結んでいた契約の破棄や、慰謝料の取り決めなどを行うためだ。

 平民の場合は裁判所へと赴かなければならないが、貴族の場合はよく屋敷へと裁判官を呼び寄せることがある。

 テーブルには私、ジョン、裁判官、そしてジョンの浮気相手であるヘレンが座っていた。

「それでは、この紙に両者サインをしてください」

 離婚を同意するための紙に私とジョンはそれぞれサインをする。
 裁判官はそれを確認したあと私たち二人が正式に離婚したことを告げた。

「それでは、これで離婚成立です」

 ジョンは勢い良く席を立ち上がり喜ぶ。
 そして勢い良くヘレンへと抱きついた。

「これでやっと君と夫婦になることができる。今までさんざん待たせてしまったけれど、ようやく公の場で君とこうして抱き合うことができる!」

「ジョン様……! 私たちはやっと夫婦になれるのですね……!」

「ああ! もう私たちを邪魔していた鎖は存在しない」

 二人は感動して抱きしめ合う。
 そしてヘレンは私へと申し訳なさそうな、しかし嬉しそうに謝ってきた。

「アン様、申し訳ありません。私のワガママでこんなことになってしまって……」

「いいえ、構いませんよ」

 私はにこやかに対応する。

(だって、今から地獄に落ちるんだから)

「んんっ」

 裁判官を咳払いをした。

「では次に慰謝料などの取り決めを行いたいのですが、よろしいですかな?」

「もちろん」

 ジョンは快く頷いた。
 私から貰えるはずの大金を想像しているのだろう。
 もちろん、ジョンに渡す金なんて一切ない。

「では慰謝料は──」

「慰謝料はアンの方から貰う。当然だな」

「……は?」

 ジョンの言葉に裁判官はポカンとしていた。
 そして恐る恐るジョンへと質問した。

「……ええと、あなたが別の女性と恋に落ちたから、離婚するのですよね?」

「そうだが?」

「つまり、不貞行為をしたあなたではなくウィルトン家が慰謝料を払うということですかね……?」

 裁判官は至極不思議そうに質問した。

「そうだ。逆に質問するが、なぜ私が慰謝料を払う必要があるんだ? 私が慰謝料を払う必要などどこにも無いだろう」
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