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第十一話
しおりを挟む「っ⁉︎」
諦めかけたその瞬間、勢いよく扉が蹴破られた。
「誰だ⁉︎」
ライムントはクリスタの上から飛び退くと、直ぐさま棚に立て掛けていた剣を掴んだ。だが鞘から抜く前に飛んできたナイフを避ける為に手から落としてしまう。
「婚前交渉は契約違反じゃないですか、ライムント・ソシュール公爵令息?」
(どうしてブラッド様がここに……)
穏やかな笑みを浮かべながらゆっくりと部屋の中へと入って来たのはブラッドだった。
手には先程投げたナイフと同じ物が握られている。
「生憎、ロワリエ侯爵には許可は得ていますので問題ありません」
「そ、そんなの嘘です‼︎」
「いえ、彼女は知らないだけで事実です」
「違います‼︎」
見え透いた嘘を吐くライムントに、クリスタは強張る身体をどうにか起こすと焦りながらも訂正をする。
縋るような思いでブラッドへ視線を向けた。
「……なるほど、そうだったんですね」
「お分かり頂けて良かった」
だが彼はすんなり納得をし、その事にライムントは胸を撫で下ろす。
「ーー」
その瞬間ブラッドに見離された気がして、気力がなくなってしまい言葉が出ない。
クリスタは二人の様子をただ力なく眺める。
(どうして……)
平然としていたが本当は絶縁宣言をした事を怒っているのか、それとももうクリスタに興味がなくなってそもそも助けようという気持ちがないのか、将又純粋にライムントの言葉を鵜呑みにしたのか分からない。
ただ彼が偶然この場所に居合わせて、偶然クリスタの姿を見つけて、クリスタの事を心配して扉を蹴破ってまで助けに来てくれたと思ってしまった。
(さすがにそれは、身勝手な話ね……)
昼間偶然会った時、目も合わさず話す事すら拒否した癖に、都合が良過ぎだろう。
「クリスタ」
呆然としていると、いつの間にかブラッドがベッドの横に立っていた。
感情の読めない青い瞳で見下ろされ、虚しさと情けなさでいっぱいになる。
「遅くなってごめんね」
「え……」
ブラッドは外套を脱ぐと乱れたドレスを隠す様にしてクリスタの身体を包み込む。
「あの、ブラッドさま……?」
「さあ、帰ろうか」
そう優しく笑ってクリスタを横抱きにした。
すると困惑した様子でこちらを見ていたライムントが我に返り慌てた様に声を上げる。
「ブラッド殿! クリスタ嬢を何処へ連れて行くつもりですか⁉︎」
「それを貴方に伝える必要がありますか?」
「彼女は私の婚約者です! 私には権利がある。それに理解してくれたのではないですか⁉︎」
その言葉に彼は鼻を鳴らし、ライムントを嘲笑した。
「ライムント・ソシュール、僕はさお前の言葉が事実か否かなんて興味がないんだよ。重要なのはクリスタがどう思うかで、彼女が白い物を黒だと言うなら僕はそれを黒く塗り潰すだけだ」
氷の様に冷たく突き刺さるような瞳が、ライムントを捉えると彼もまた怒りを露わにする。
沈黙が流れ睨み合いが続くが、ブラッドの侍従が店主を引き摺り現れた所で終わりを告げた。
「ああそうだ。ロワリエ侯爵は取引には応じないと思いますよ。侯爵は違約金なんてつまらない物で動かせるような人じゃない。幾ら公爵家といえ、こんな事が公になればどうなるでしょうね」
何時もの穏やかな笑みを浮かべそれだけ言うと、ブラッドはクリスタを抱き抱えたまま部屋を出た。
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