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第三十三話 反撃

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さぁ、反撃開始だ!


スタンガンでナマケモノは痺れている、一時的に動けないようだ。

今がチャンスと短パン小僧にもスタンガンを向けた! この隙に俺の指輪を、

「降参します。」

素直に両手をあげて降参してくれた。


反撃はあっという間に終わってしまった。

手を緩めてしまったのか、カブトムシが短パン小僧の手から逃げ、バタバタと飛び去っていく。


もう捕まるなよ。

短パン小僧が悲しそうにカブトムシを見つめている。



――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――


という訳で、俺は今、深夜の森の中、ロープで手をしばった短パン小僧とナマケモノを正座させている。

リリーの家からロープも持ってきといて良かったぜ。

でもこれ、知らない村人がみたら、俺が誘拐犯か何かに見えなくもないよな。



一応振り返ったが、村人はいないようだった。

良かった良かった。


ナマケモノも目が覚めたようで尋問を始める。


「お前たちが、皆のサイフを盗んで、ちょっと小銭を抜いて、残りは道に置いて、持ち主に返却していた犯人で相違ないな?」

「間違いありません。」

短パンが俯きながら答える。


暗い森の中、炊飯器が持つランプが短パンの顔だけを黄色く照らす。

まるで昭和の取り調べ室だ。

「なんでそんなことしたんだ。」

「それは……」


沈黙が流れる。


「タケシィにおむすび畑を作るためなんだよォ!!!」

「フォーリー!」

ナマケモノがまっすぐこちらを見据えて答え、短パン小僧がそれを止める。


「タケシィは僕に、最後のおむすびをくれたんだ!!」

「フォーリー!」
(声が少し高い)

「タケシィは異世界人で、最後のおむすびだったのに!」

「フォーリー!」
(嗜めるように)

「この土地にはおむすびの草がなくて、種を買うにはお金が必要なんだ!」

「フォーリー」
(懇願するように)

「それを分かっていて!最後の!おむすびを! お腹が減っていた僕にくれたんだァーーー!!!!」
(絶叫)

「フォーリー!!!!」
(絶叫)


短パン小僧は泣きながらナマケモノに頬をスリスリしている。

ナマケモノも満更でもなさそうな顔でポロポロと涙を流している。


もう二人切りの時にやってくれ。

それにしても、涙まで流すとは生態ユニット、便利過ぎるな。


「そういえば、このナマケモノは、ご飯を食べられるのか?」

「ナマケモノじゃなくてアライグマだよォ!!!!」


突然、ナマケモノが否定された。

え、でもフォルムはナマケモ……


「僕はアライグマのフォリヴォラさ!!

 タケシィがつけてくれた名前なんだ!!!」


ナマケモノ、もといアライグマのフォリヴォラがキリッとした顔で言う。


そうか、フォーリーはフォリヴォラが正式名称だったのか。

フォリヴォラ、Folivora、ナマケモ……

ちらっと少年を見る。

眉間に力を込めて、なんとも申し訳なさそうな顔で、斜め上を見つめていた。

きっとアライグマだと知らずに名付けたのだろう。

俺は大丈夫だよ、と念を送った。

カッコいい名前だし、まぁ、バレようもないだろう。


「その時は食べれたんだけどね。」

フォリヴォラが説明を引き継ぐ。

「今は小型化で有機物消化ユニット外してるんだ。 村に帰ればユニット付け替えて食べられるようになるよ。」

「タケシィの和風パスタはすゥーっごく美味しいんだぞォー!!」

フォリヴォラがドヤ顔で言う。



和風、パスタ。

和風という単語を他人から聞くのは、この異世界にきて初めてである。


正直、深夜に少し動き過ぎた気はする。

かなり、腹が減っている。

この世界にも和食はあったりするんだろうか。

おむすびに和風パスタ、俺はもっと少年の話を聞きたくなってしまっていた。

「もう盗みはやらないこと。盗んだ額は時間がかかってもちゃんと持ち主に返すこと。あと、村の皆に謝ること。」

「これをすれば、まぁ俺からの制裁は特にしないでやるよ。」

一応、命を狙われていた気もするが、和風パスタの前には少しどうでも良くなってしまっている。

「この世界に警察があれば、皆から突き出されてアウトだろうけどな。」


「そのかわり、村の人が許してくれるようであれば、その。俺にも和風パスタを、食べさせてくれないかな?」


短パン小僧はフッと笑うとウィンクをしながら縛られた両手を突き出し、親指を上げてみせた。

つくづく短パンの似合わない短パン小僧である。





「う、うわぁー!誘拐犯か何かだぁー!」

振り返ると、通りがかりの村人が腰を抜かして逃げていくのが見えた。
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