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第十二話 記憶

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「王様、ですか。」

「はい、王様を目指してもらいます。もちろん候補として唯一な訳ではなく、即位するためには、他の候補者との競い合いに勝ってもらう必要があります。」

「なるほど」

わかったような、わからないような。

「以上で説明は終わりになります。 何か質問はありますか?」

すぐには思いつかなかった。
知らない話を長く聞きすぎたためか、上手く情報が処理しきれない。

「それでは、選択する機体が決まり次第、あちらの部屋へどうぞ」

シスターは一瞬だけ微笑みを見せたあと、いそいそと事務作業に戻ってしまった。

さて、どうしたものかな。

王様の件はとにかく、何をするかは大体わかった、とは思う。

王様のことは勝ち抜けたあとで考えることとしよう。どうせ一候補でしかない。


パンフレットからは、攻撃型と飛行型、そしてゴメスさんで実績証明済の炊飯器型、その3つが魅力的にうつった。

どんな戦闘かはわかっていないが、攻撃力が高くて困ることはなかろう。

どっしりとした大型ボディにこの中では一番大きい砲台がついているようだ。

何の数字かは読めないが、多分堆積火薬量と砲弾口径が最大、と記載されているようだった。

空を飛べる機体も魅力的だ。
細めの機体に、4つのプロペラがついている。


立派なパンフレットに記載された機体は、説明は読めなくとも、どれも魅力的に見えた。

実物を見たのは、タワー型(カスタマイズ済み)と、炊飯器型だけだ。

本当はちゃんと説明書を読んで決めるべきなんだろう。

ただ、少年が選択し直しも可能といっていたしな。

あまり迷っても仕方ないかもしれない。

よし、これに決めた。



俺は決めました、とシスターに伝えて奥の部屋へ進んだ。

礼拝堂を出ると、木製の長い廊下が続いていた。

俺はその雑巾掛けまでされていそうな綺麗な廊下を、まっすぐと進んだ。

廊下の終わりには、教会らしからぬ重厚な鉄製ドアがついていた。

分かれ道もなかったので、多分ここが目的地なんだろう。

ドア枠や壁までも鉄製になっており、防犯意識の高さが感じられる。

まるで銀行の金庫室からとってきたかのようなドアだ。

ドアノブを回す。

意外なことに鍵はかかっておらず、ドアと鍵が開く音がする。

なんのための厳重警備なのか。

俺はドアを力いっぱいひっぱる、子供の体にとっては、なかなかの重さだ。

壁に足をかけて体重ものせひっぱると、やっとドアが開いた。


開くと同時に中からは冷気と奇妙な音が溢れ出す。

ブァーーーーーー、と、何かの空調のような音が鉄製ドアの中から鳴り続ける。

中は暗い、地下への階段になっているようだが、ここからはあまり見えない。


中に入ってみる。

ひんやりとした空気が身を包み、オレンジ色の光が目についた。

光が、一般的な白熱球ではないことに気づく。

エジソン電球とでも言えばいいのだろうか、妙にレトロな風合いを感じる。

これがこの世界における最先端の電球な訳はないと思うのだが、俺はこの世界で電球を初めて見た気がしていた。

確かに、教会にもリリーの家にも馬車の中にも駅にも電球、夜に光を付けるための製品はなかったのだ。

炊飯器の小さいランプ(ご飯が炊けたことを示すようなランプ)はあったが、何か別枠な気がする。


俺は今すぐ何かを導き出すことは出来なかったが、この電球自体を何か、気になってしまってはいた。

なんだろう。 まぁいい。

おかげで暗い階段は転ばずに降りれるのだから。

もう少し電球の数が多ければ、もっと安全に降りられるんだが。

所々暗い階段には、たまにエジソン電球が配置されている程度で、俺はその中を降りていく。

雰囲気としては、実験室か、秘密基地。

それも完全に悪役サイド、もしくは味方でもマッド寄りのものに見えてしかたなかった。

3階分くらい降りただろうか、なかなかの運動量だが、一層と周りの寒さが強くなる。

階段の終着点には、大きな部屋があった。

中には、3階建以上はありそうな、大きなプラントのような施設があった。

その中心には、パイプオルガンのように巨大な機械が聳え立っている。

その巨大な機械には、鉄製のパイプが何本も複雑に引き込まれており、この部屋の主役がその機械であることを印象付けていた。

空調音はここの部屋からしていたようだ。
この部屋を冷やしているのだろうか。

巨大な機械の近くで白衣の男が何かの作業をしている。

空調音のせいか、こちらには気づいていない。

あの人に指輪のことを話せば、パンフレットにあった機体をもらえるのだろう。


この巨大な機械のある部屋が、今回の旅の目的地であることを確信していた。

「すみません、登録に来たのですが。」

俺は男に近づき、指輪を見せながら声をかけた」

男は俺に気づくと指輪に目を向けてから言った。

「よく来たね。 おぉ、君は左手の薬指か。」

博士の年は30,40代だろうか。
色白で年齢がわからないタイプだ。


博士は真剣な眼差しで、こちらの顔をじっと見据えている。

「記憶を機械に食べられる覚悟は出来たかね?」


完全に初耳である。
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