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第九話 町

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「セーフティ馬車へよぉぅこそ!」

演劇のようなしゃべり方で、4つ顔の持つ紳士がそう言った。

声がハモっており、聞き心地は悪くなかった。


セーフティ、と言っていた。

あの馬(トーテムポール)は見た目は間違いなくアウト寄りだが、
比較的安全、ということなのだろうか。


乗車する気になれない俺を「でぇじょぶだから!」と少年が半ば無理やり乗せた。

馬車は走りだしてしまった。


少年が客車の中でパンフレットを使い、この馬車のことも解説してくれた。

生きた顔にしか見えなかった多脚トーテムポールも、実は機械でできているらしい。


パンフレットには「防御型継承戦戦闘機」という、縦長の機械が記載されていた。

この縦長の機械を改造したものが、今走っているトーテムポールらしい。

パンフレットの防御型機械は、縦に長いので、俗にタワー型と呼ばれている、とのことだった。


タワー型に本来、顔はついていない。

大量についた顔は、周囲をより強く警戒させるために改造されたもので、4つ顔の紳士のオリジナルだそうだ。


「疑似生体視覚ユニットを10基積んだのじゃよ。 これで完璧に安全じゃ!」

紳士がいう。


少年が解説を続ける、

「元々防御型はマスターを守る盾としての役割が強ぇんだよな。」

「危険時には自分の体を横にでかくして、マスターを攻撃から守んだぜ。」

「デザインは、まぁイケてはいねぇが、身を挺すガッツのある野郎だ。」

「一番に安全を重視したいなら、間違いなくこいつを選ぶべきだろうな。」

少年が得意そうに教えてくれる。

「この馬車も攻撃を受けたら客車を守るために全力で守ってくれんだよ。」

少年がこちらを見る。

「だからさぁ、あんま怖がってやんなよ!」

肩を小突かれた。

まだこの乗り物を怖がっていることに気づかれていたらしい。


紳士は、そこで俺がトーテムポールを怖がっていたことに気づいた。

「おぬし、異世界人か。」

うなずく。

「なるほど、すまないね。 怖がらせてしまったか。」


紳士は、自身の首元を、右手でさすりはじめた。

カチっという音とともに、突如、4つの顔が、皮膚ごとカパッと外れた。

外れた皮膚の下にはもう一つの皮膚があり、紳士の本当の顔が現れた。

顔は1つしかなく、普通の人間と同じ大きさだ。

作り物の顔として、4つの顔をつけていたらしい。


「これも疑似生体ユニットなのじゃ。」

「今では安全の象徴となって長い多顔馬車じゃが、知らない人には怖かったかもしれないね。」

「この顔も、安全のためのものだったんじゃが、君にはすまないことをした。」

「そうだ、これをあげよう」


何かのチケットと、おまんじゅうをもらった。

チケットにはなんて書いてあるのだろう、少年がのぞき込む。

「おぉー、公式改造ショップの割引券じゃねぇーか。」

どこかの店の割引券をもらったようだ。

「登録終わったら俺が連れてってやるよ。」

「1回でどれだけ買ってもダイジョブみたいだし、俺の買い物も割引させろよな。」

自然なコミュニケーション力だ。 羨ましい。

俺もこの店がどこにあるかわからないので、お互いウィンウィンである。

少年ではあるが、こういう能力はシンプルにはシンプルにあこがれる。


町に着くまで、パンフレットの続きを解説してくれた。

たまに客の乗り降りがあったが、4つ顔のおじさんよりはインパクトが少なく、
ヨーロッパの田舎町のような服装・雰囲気の人が多かった。

異世界なのでやはり、中世ヨーロッパ風なのだろうか。


以下が、パンフレットに乗っている機械と、教えてもらった通称だった。

1.攻撃型継承戦戦闘機 = 砲台型
2.防御型継承戦戦闘機 = タワー型
3.陸運型継承戦戦闘機 = 自動車型
4.高速型継承戦戦闘機 = 多脚型
5.航空型継承戦戦闘機 = 飛行型
6.汎用型継承戦戦闘機(拡張性特化モデル) = 拡張型 ※これは炊飯器型と呼ぶ

他にもあるらしいが、一般的なものはこの6種類らしい。
さすがに長いので、これからは通称で呼ぼうと思う。

この基本ユニットに加えて、このトーテムポールのように、
改造の方法でカスタマイズは無限にできるとのことだ。

うーむ、これは迷う。

一応後から変更はできるが、なるべくしないほうがいいらしい。

理由も説明されたが、少年の説明は急に要領を得なくなり、深くわかってはいないようだった。


だいたいこの機械で俺は何をすればいいんだ。

目的次第でなんとでもなるだろう。


目的について少年に尋ねると、少し苦い顔をされた。

「それは。 登録所で詳しく聞けよ。」

あまりそこについてはしゃべりたくないようだ。

沈黙が少し生まれた。


外から聞こえる「ドドドド」音が少し小さくなってきた。

「もう着くみてぇだな。」

窓からは町らしきものが見えた。

町の真ん中で、大きな歯車が回っている。

「ようこそ、機械仕掛けの国へ」

俺はリリーの家で目にしたその言葉を改めて思い出していた。
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