国の祭典の前日に

夕景あき

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国の祭典の前日に

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 国の祭典の前日に、勇者と聖女は窮地に立たされていた。

 先日、魔族軍と魔王が無事に討伐され、その功労者である勇者達は国を挙げての祭典でその偉業を労われる事となっていた。

 リハーサルが行われていた、広場にて突然それは起こった。

「あいつらは英雄ではない!」
「勇者も聖女も、守る人に優先順位をつけて、命を選別していたんだ!犯罪者だ!」
「仲間の命も踏み台にして、名誉を手に入れた最低の奴だ!」

 複数名の青年が、勇者と聖女を取り囲み糾弾したのだった。
 周囲に集まっていた人もざわめき、徐々にその話が広まっていった。
「たしかに、もっと早く来てくれればウチの夫は死ななかった!命の選別で見捨てられたってことだわ!」
「そうだな。人を差別する人は、英雄などとは呼べねぇな」
「こんな金のかかる祭典で祝われたがる自己顕示欲の強い奴らだ·····信用ならねぇ!」
「聖女って、勇者に色目を使って取り入ったって話だぜ。人の治療より自分の美貌の維持に魔力を使ってるらしいぜ。その証拠に昔は普通の黒髪だったのに、今じゃ目立つプラチナブロンドになってやがる!」
「仲間は賢者と魔法使いだったかしら·····たしかに、ここにいないわ!死んでしまったからなのね·····名誉の為に仲間の命を犠牲にするなんてひどいわ·····」

***

 その時、隣国の王室にて下卑た顔でニヤニヤ笑いながら国王が諜報員に話しかけた。

「例の件は、上手くいったか?」

「はい。万事滞りなく。やはり人は善意より悪意を求める生き物ですね。魔族の侵略で人の心が荒んでいるせいもあったのでしょうが、良い噂の100倍、悪い噂は伝播しました。正義感を少し加えてやれば効果覿面です」

 諜報員の報告に、国王は腹を抱えて笑った。

「ははは!憐れだな!隣国は軍事力は虚弱で、外交と勇者達頼みだからな。祭典を台無しにし、国の面目を潰して、勇者も潰せば、あとはひとひねりだな」

 諜報員は自分の仕事のスムーズさを思い返し、頷いた。

「人は弱い生き物ですからね。ストレス溜まっている時なら尚更です。自分の身を守った状態での他者批判や、我に正義ありと思えるバッシングは蜜の味ですからね。麻薬のように国を滅ぼす」

「私が、あの時こちらの国に寝返るように言った時に大人しく従っていれば良いものを·····『せっかくですが、お断りします。俺、母国が好きなんで、すみません』などと言いおって、馬鹿なヤツだ。勇者と言えども相手が人の悪意という目に見えない敵では、太刀打ち出来まい」

 そう言って、隣国の国王は黒い笑みを浮かべたのだった。

***

 リハーサル中の突然のバッシングに、聖女は激怒していた。
 この数年、泥と血にまみれながら、この国の民を守るために寝る間も惜しんで必死に駆け回って戦ってきた記憶しかない。
 聖女の力を使いすぎて、髪の色は老婆のような白色に変わってしまった。寝る間も惜しんでたからいつも目の下にはクマがあった。
 でも、自分を労る時間があったら、他人を助けようと駆け回ってきた。
なのに·····なのに、なんで!

「私達がどんな思いで戦って来たか!どうして!·····悔しい!真実がなんで伝わってないの!!この祭典だって、この資金を復興にまわして欲しいと願ったけど、人の活気が何よりの国のためになるからと言われて参加しただけなのに!悔しい!悔しい!悔しいっ!挙句の果てに、仲間の命を踏み台にしたですって·····何も知らずに、なんて事をっ!」

 顔を覆って悔し涙を流す聖女の肩を、勇者が優しく叩いた。

「大丈夫だ。人の善意を信じよう。この国の人の心は、もっと強いはずだ。ほら見てご覧」

 勇者の発言に、聖女は顔を上げた。

 するとそこには、聖女と勇者を覆うように幼い少女が手を広げて立っていた。

「嘘です!聖女のお姉さん、血まみれの泥まみれになって、ウチのお母さん助けに駆けつけてくれました!お母さんを助けてくれたあと魔力切れで倒れてしまい、『いつもの事だ』って賢者の方に担がれてました!聖女のお姉さんが悪い人なんて嘘です!」

 すると、杖を着いた老人がヨロヨロと歩み出てきた。その覚束無い足取りに反して、老人の声は矍鑠としていた。

「皆、悪い噂に惑わされるな!勇者様は、駆けつけて儂を魔物から助けて下さった!その際に、儂を庇って背中に傷を負われたのじゃ。聖女様に治癒して貰っていたが、とっても痛そうじゃった·····場所が悪ければ、勇者様は死んでたかもしれん。·····命の選別するなら、老い先短い儂は誰より見捨てられてしかるべきだ。そして、勇者様の安全が何より大事なはずじゃ。しかし勇者様はそうせんかった。それが、何よりの真実だ!1人の人間に出来ることには限度がある、だからこそ頑張ってる人を応援する!儂らがすべきは、出来なかったことを批判することではなく、頑張ってる人を応援して、皆で前を向くことではないのか!?」

 幼い少女と老人の声は、国中に響き渡った。
 比喩ではなく、本当に国中に大音量で響いたのだ。
 聖女は驚いて、呟いた。

「こ、この音拡散の魔法はもしや、魔法使いちゃん·····!?」

 聖女のその声と共に、勇者と聖女の隣に魔法使いと賢者が瞬間転移してきた。

「賢者くん、魔法使いちゃん!!生きて戻ってくれたのね!!」
 
 聖女のその声に対し、賢者はいつもの軽い感じで、勇者に話しかけた。

「いやぁ、『隣国に諜報員として潜り込め』なんて、勇者が無茶振りするから死ぬかと思ったぜ!」

 勇者は頭を下げながら言った。

「いや、危ない事を頼んで悪かった。でも、お前ら二人なら、やり遂げてくれたんだろ?」

「ああ!証拠はバッチリだ!」

 勇者と賢者はハイタッチして、喜びあった。
 小柄な魔法使いは聖女に抱きつき、「エネルギー補給!やっぱ、聖女ちゃんに抱きつくのが1番癒されるぅー!·····よし!私は最後の一仕事頑張るぞ!」と言うと、青空に映像魔法を展開させた。

 空には、色鮮やかなスクリーンが立ちあがりある映像が映し出された。

「あれ、映ってるのは隣国の国王じゃねぇか!」

 その言葉に広場はざわめきに包まれた。

 映像と共に大音量で、隣国の国王と諜報員のやり取りが映し出された。

『例の件は、上手くいったか?』

『はい。万事滞りなく。やはり人は善意より悪意を求める生き物ですね。魔族の侵略で人の心が荒んでいるせいもあったのでしょうが、良い噂の100倍、悪い噂は伝播しました。正義感を少し加えてやれば効果覿面です』

 広場にてはじめに糾弾しはじめた青年達は、映像を見て顔色を失っていった。

『私が、あの時こちらの国に寝返るように言った時に大人しく従っていれば良いものを·····『せっかくですが、お断りします。俺、母国が好きなんで、すみません』などと言いおって、馬鹿なヤツだ。勇者と言えども相手が人の悪意という目に見えない敵では、太刀打ち出来まい』

 映像内の、隣国の国王の発言に広場は静まりかえった。
 そして広場にて一人、また一人と叫び始め『勇者様バンザイ!』というコールが広場中、国中で叫ばれたのだった。

 その大歓声の最中、「ふふふ。これで時期国王は俺のものかな」と勇者が黒い声色で言っていたのを聞いた者は誰もいなかった。
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