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私を形成してるモノ
第8話 動機は不純(2)
しおりを挟むしかしこれは本当に難しい問いだ。
だって私は『自分の中の常識』をこれまで世間一般の常識だと思って生きてきたのだ。
それを突然抜き出せと言われても、ちょっと困る。
そう思った時だった。
「『常識』っていうか、『美里ちゃんの習慣』って考えた方が分かりやすいかもしれないね」
そんな奥さんの言葉に、私は今度は「習慣……」と呟いた。
何だろう、習慣って。
つまり、「いつもやってる事」「ついやっちゃう事」っていう事でしょう?
そう考えて、一つだけ頭に思い浮かんだ。
「習慣っていう程のものじゃないんですけど……実家に帰ればいつも必ず一番最初に仏壇に手を合わせますかね」
「あら、素敵な事じゃない!」
私が出したその候補は、どうやら奥さんのお気に召したようだった。
今までで一番弾んだ声にほんのちょっと驚いて、そして何だかとても申し訳なくなる。
何故なら。
「でも、ただ仏壇に線香をあげて拝むだけですよ……?」
だってこれこそ、そんな風に喜んで貰える程の事じゃない。
なにかお供えを持っていく訳でもないし、頻度だってそんなに高くない。
実家に帰れば拝む、ただそれだけなのある。
そんな気持ちを込めて言うと、彼女はひどく穏やかな声色で「それでいいのよ」と言葉を返した。
「真っ先にご先祖様に挨拶なんて、とてもいい習慣じゃない」
「まぁそれだって、ただ『後回しにすると忘れちゃうから』っていう理由ですし」
確かに「仏壇のある家に行ったらまず最初に拝みましょう」は母からの言いつけではあるし、実際今までその通りにしてきてはいる。
しかし、私としては「どうせしないといけない事なんだし、忘れると嫌だから先に済ませてしまおう」という気持ちがある。
つまり動機が不純なのだ。
だからやっぱり奥さんに感心してもらえるような事じゃない。
感心してもらう程じゃないと思っている事で感心されると、何だかとっても座りが悪い。
だから反論というか言い訳というか「あまり私に期待しないで」と思いながら苦笑したのだが、それでも奥さんは食い下がる。
「でもそれだって『仏壇に手を合わせる事は、家に行ったら必ずしなきゃいけない事だ』っていう常識が美里ちゃんの中にきちんと息づいているからこそでしょう?」
やっぱりそれはいい事よ。
そう言って、奥さんが自分の言葉に「うんうん」と相槌を打つ。
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