上 下
13 / 30
二人と一緒に生活すると決めたフィーリアは、お供を連れて街にくり出す。

第16話 生きるための助け合い(2)

しおりを挟む


「煮物にするといいと思うけど、下処理がちょっと面倒でね。家に帰ったらなるべく早く、根元のこの固い部分と上のこの辺までを切り落として、皮をむいて、下茹でをしないといけないんだよ」
「下茹で、ですか?」
「あぁ、アクが強いからね。下茹でしないと、えぐみが出てあんまり美味しくない。せっかくなら美味しく食べないと損だろ?」
「アク……」

 アクとは何だろう。
 知らない単語に疑問を抱いていると、おそらく顔に出ていたのだろう。今度は驚いた顔をされる。

「あんた、料理するのに灰汁取りも知らないのかい?」
「すっ、すみません……」

 条件反射で、謝罪の言葉が口から洩れた。思い出したのだ。「貴女、そのような事も知らないの?」と私を嘲笑うレイチェルさんの顔を。

 一体何度、彼女から「何でこんな事も出来ないんだ」「分からないんだ」と言われた事か。
 忘れていた怖れが、足元から這い上がってくる。きっとまた、私を、私の存在自体を否定され――。

「不思議な子だねぇ。でもまぁ良いさ。人ってのは、失敗したり教えてもらって少しずつ知っていくものだからね」

 あっけらかんとした声に驚いて、彼女を見る。

 彼女のカラリとした笑顔に、無性に鼻の奥がツンとした。
 何故だろう。日に焼けた肌と赤毛のぽっちゃりとした彼女とは似ても似つかない筈なのに、何故か亡くなったお母様を思い出す。

「私も昔、お母さんから色々と教えてもらったものさ。誰もが一人じゃ生きちゃいないんだ。こういうのは助け合いだからね。あんたもいつか、誰かに教えてあげな。それでトントンさ」

 そうだ。私が何か失敗をしてちょっとふさぎ込む度に「次頑張ればいいんだよ」と背中をトントンと優しく叩いてくれていたお母様は、いつだって私の味方だった。

 責められなかった事に安堵して? それとも、他者の無知が許容できる彼女の心が温かくて?
 分からない。両方かもしれないし。もっと他の感情なのかもしれない。自分の心が分からない。
 ただ何故か、ここに居ていいのだと言ってもらえたような、私という人間を肯定して貰えたような気持ちをまた一つ貰えたような気分になった。

 そう思うと、ダメだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

追放された付与術士、別の職業に就く

志位斗 茂家波
ファンタジー
「…‥‥レーラ。君はもう、このパーティから出て行ってくれないか?」 ……その一言で、私、付与術士のレーラは冒険者パーティから追放された。 けれども、別にそういう事はどうでもいい。なぜならば、別の就職先なら用意してあるもの。 とは言え、これで明暗が分かれるとは……人生とは不思議である。 たまにやる短編。今回は流行りの追放系を取り入れて見ました。作者の他作品のキャラも出す予定デス。 作者の連載作品「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」より、一部出していますので、興味があればそちらもどうぞ。

なぜ身分制度の恩恵を受けていて、平等こそ理想だと罵るのか?

紫月夜宵
ファンタジー
相変わらずn番煎じのファンタジーというか軽いざまぁ系。 悪役令嬢の逆ざまぁとか虐げられていた方が正当に自分を守って、相手をやり込める話好きなんですよね。 今回は悪役令嬢は出てきません。 ただ愚か者達が自分のしでかした事に対する罰を受けているだけです。 仕出かした内容はご想像にお任せします。 問題を起こした後からのものです。 基本的に軽いざまぁ?程度しかないです。 ざまぁ と言ってもお仕置き程度で、拷問だとか瀕死だとか人死にだとか物騒なものは出てきません。 平等とは本当に幸せなのか? それが今回の命題ですかね。 生まれが高貴だったとしても、何の功績もなければただの子供ですよね。 生まれがラッキーだっただけの。 似たような話はいっぱいでしょうが、オマージュと思って下さい。 なんちゃってファンタジーです。 時折書きたくなる愚かな者のざまぁ系です。 設定ガバガバの状態なので、適当にフィルターかけて読んで頂けると有り難いです。 読んだ後のクレームは受け付けませんので、ご了承下さい。 上記の事が大丈夫でしたらどうぞ。 別のサイトにも投稿中。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

聖なる歌姫は喉を潰され、人間をやめてしまいました。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ロレーナに資格はない!」 「歌の下手なロレーナ!」 「怠け者ロレーナ!」 教会の定めた歌姫ロレーナは、王家の歌姫との勝負に負けてしまった。それもそのはず、聖なる歌姫の歌は精霊に捧げるもので、権力者を喜ばせるものではない。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...