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第二章:初めての社交お茶会に出向く。

第9話 分別のついていない大人

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 セシリアは疲れを訴える自身の目を休ませる為に、何もない白い天井を仰ぎ見た。
 しかし残念ながら、それでも疲れは消えてくれない。
 仕方がないので、眉間を摘んで少し揉み解す。

 そうして少し目と、そしてついでに心も落ち着けてから目の前の紅茶に口を付けた。


 これはつい先程、退室する前にここの執事が淹れてくれたものだ。

(……うん、良い茶葉を使ってる)
 
 セシリアはまず、そう独り言ちた。

 そして次に「この紅茶を入れた者の手腕も中々だ」と心中で評する。


 しかし、同時に思う。
 マルクの腕には遠く及ばない、と。



 公爵家という高い地位の家の使用人だ、半端な者を雇っている筈は無い。

 しかしセシリアが知る『最高』はそれ以上なのだから、やはりオルトガン伯爵家の使用人のレベルはやはり高いのだろう。


 と、ここで。

 コンコンコン。

 聞こえてきた扉のノック音の後に、こんな声が続く。

「失礼いたします」

 それはつい先程セシリア達をこの部屋へと案内してくれた執事のものだった。

 彼はゆっくりと扉を開け、横に控える。
 そして開けられた扉を、とある人影が潜った。



 1人目の入室者は、クレアリンゼを見つけるなり「おぉ」と歓喜の声を上げた。

「まずは今日来てくれた事に、礼を言おう!」

 父よりも少しだけ年若く見えるその男はお腹周りにたくさんの脂肪を蓄えていた。

 セシリアとは、まだ直接的な面識が無い人物である。
 ……まぁ、セシリアの方は彼がどこの誰かなど当たり前のように知っているのだが。

「――それにしても相変わらず美しいな、クレアリンゼ嬢は。こんな大輪の花に来てもらえたのだから、今日のお茶会の成功も間違いない」

 大仰なジェスチャーで喜びを示しながら入室してきた彼に、クレアリンゼが席から一度立ち上がった。
 その為、セシリアもそれに倣って席を立つ。

 そして、彼の言葉に対して。

「あら嫌ですわ、ヴォルド公爵。『クレアリンゼ嬢』だなんて。もう結婚して15年も経ちますのに」

 彼の好意的にも取れる声に対して、クレアリンゼは「フフフッ」と微笑みながらけん制する。


 本来、名前に『嬢』を付ける呼び方は未婚の女性を呼ぶ時に用いられる。

 その呼び方を結婚して15年も経つのに今も尚使い続けるというのは、「呼び慣れていなくてつい言い間違えた」では済まされない。


 本来『伯爵夫人』と呼ぶべき所で、未だにその呼び方を使う。
 それは「お前達の結婚を、私は認めていない」と公言しているも同然だ。


 そもそも恋愛結婚をしたクレアリンゼとワルターにとって、それはただの侮辱でしかない。

 そしてそれ以前に、彼にそんな事を言われる筋合いも無い。

 だってクレアリンゼと彼は、親戚でもなければ交友関係が深い訳でも無い。
 ただの一社交相手なのだから。

 そんな『ただの他人』に、婚姻についてとやかく言われる筋合いは無い。


 だというのに、彼は「お前の結婚には本来俺の承認が必要である。俺は認めていない」と言わんとする。
 
 その態度が、そうでなくても腹の立っていたクレアリンゼの心を逆撫でした。

 そしてそんな彼の心情を、セシリアは客観的に想像する。


 貴族の結婚には、王族からの承認が必要不可欠だ。

 そして、彼は公爵。
 その血筋を遡れば、王族に行き着く家系である。

 実際に、彼の父が前王弟だった。
 だから血筋的にも王族に近い。
 しかし、たとえそういう事実があっても、彼は王族ではない。

 彼の父親が公爵位を得た瞬間から、彼は王族の一臣下の家の人間でしかないのだ。


 それなのに。

(一体何を勘違いしているんだか)

 分別のついていない大人の姿に、セシリアは思わず呆れてしまう。
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