上 下
51 / 78
第二章:初めての社交お茶会に出向く。

第8話 ご機嫌ななめ、どころではない(2)

しおりを挟む


 もしもこの珍しい待遇に『接待』という側面があったなら、きっと客人が部屋に入ってから主人を呼びに行くような事はしない。

 私たちよりも早くこの部屋に居るか、私たちが屋敷に到着したのと同時に使用人が伝令に走るかの二択だっただろう。


 しかし執事は今正に、当主を呼びに行っている。

 この現状が、一体何を意味するのかというと。


「……はぁ」

 セシリアはため息を隠さなかった。
 
 その怒り様を見るに、彼女はおそらく此処に通された瞬間から、否、下手をするとその道中から、相手の本音を知っていたのかもしれない。

(まぁ理由が分かった所で、結局はどうにもならないんだけど)

 完全に損ねたクレアリンゼの機嫌をどうにかする為には、少なくとも現状の変化が必要だ。

 何故なら今のこの現状が、彼女の不機嫌の元凶なのだから。


 だから『疑問』という名の好奇心をすっかり満たしたセシリアは、満足感と共にその議題を潔く放り捨て「それにしても」と、冷えた瞳で室内を見回した。


 この応接室に置かれた、数々の調度品。
 
 それらの存在に、セシリアは激しい胸焼けを覚えていた。


 理由は、2つ。

 まず。

(すごい圧迫感)

 そう思ってしまう程に、この部屋の調度品は数が多い。


 応接室に調度品をより多く飾る事は、自分の権威をの誇示に繋がる。

 だから貴族界では、より多くの調度品を飾る事が一種のステータスになっているのだ。


 しかし、何事にも限度というものは存在する。

 まるで敷き詰めるかのように所狭しと飾されたそれらは、正直限度を大きく超えている。

(これじゃぁもう、展示を通り越してただの保管だよ)

 そんな感想を抱くくらいに、この部屋の状態は悪い。


 その上。

(色も酷いし)

 この部屋に置かれている調度品は、そのほとんどが金、金、金。
 しかも南の窓から差し込んでくる日差しが調度品達に反射して、輝く金が目に痛い。



 調度品は、その家の裕福さを示す為の物だ。
 そして富とは、一種の武器である。

 例えば商談や社交などで相手の優位に立つ為には、一番手っ取り早い手だろう。


 しかし限度を知らないそういう主張は、時に相手を不快にさせる。

 応接室とは、本来は客人を迎える為の部屋だ。
 それなのにこんなにも客にとって居心地が悪いというのは問題だろう。


 相手に冨を示すにしても、高価な物を沢山集めて片っ端から並べれば良い、というものではないのだ。

(もし何も考えずに並べた結果がこれなんだったら、貴族としての品性が足りない。そしてもし考えた末でコレなんだったら、圧倒的にセンスが足りない)

 どちらにしても、セシリア的には論外である。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」 *** ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。 しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。 ――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。  今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。  それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。  これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。  そんな復讐と解放と恋の物語。 ◇ ◆ ◇ ※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。  さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。  カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。 ※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。  選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。 ※表紙絵はフリー素材を拝借しました。

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...