上 下
49 / 78
第二章:初めての社交お茶会に出向く。

第7話 クラウンの言い分 -理不尽と闇鍋編-★

しおりを挟む


「今日のお茶会に、オルトガン伯爵家の第二令嬢が来る」

 父親のそんな声に、クラウンは自身の思考の中から引き戻された。
 向かいの席に目をやると、明らかに不機嫌な父親がそこに座っている。

「お前は彼女と和解し、その光景を周りの貴族達に見せなければならない」

 重苦しい、父親の声。

 そこから彼の不機嫌さを察して、クラウンは思わず身じろぎする。


 彼が不機嫌な理由は、何となく分かる。
 おそらく先日呼び出された時に話に出た、『噂話』についての事だろう。

(だってこの間、それについて何かとっても怒られたし)

 その理由は未だによく分からない。
 分かるのは、怒られているという事実とそれが『あの女』のせいだという事くらいだ。
 
(だから、多分今のこれもソレ関係の話だと思うんだけど)

 しかしだからこそ、クラウンは首を傾げ図にはいられない。

「あの、お父様。どうして俺が婚約者殿と和解しないといけないの……?」

 意味が分からない。
 そう言わんんばかりの困惑顔なクラウンに、父親は呆れのため息をつく。

「……先日の王城パーティー以降に流れている噂話、その事態の収拾を図るために必要なのだ」

 その声に、クラウンはすかさず反論する。

「でもお父様、あの日も話したけど俺にはそんな噂を立てられる心当たりなんて無――」
「そうだとしても、必要なのだ」

 社交として、必要な措置だ。
 だからしのごの言わずにやれ。

 視線でそう釘を刺されて、クラウンは少しムスッとした。

 そして、呟く様に言う。

「だから、それで何で婚約者殿を相手にそんなことする必要があるんだ。今回の件と婚約者殿は、別に何の関係も無いじゃないか」

 まぁ確かに非公式とはいえ婚約者がいる身で別の女の子にちょっかいを出したのは、ちょっとマズかったのかもしれない。

 でもそれだって、結局は未遂に終わったのだ。
 ならそれで話は終わりでいいじゃん。

 グチグチと言われたその声は、本当に小さな物だった。
 しかしすぐ向かいの父親に届くには十分な声量でもあった。


 クラウンの言葉に、父は少し驚いた様な顔になった。
 そして「あぁ」と疲れにも呆れにも似た息を吐くと、彼が気付いていない事実を教えてやる。 

「クラウン、先日お前が言っていた『王城パーティーでの無礼者』がお前の婚約者だ」
「えっ?!」

 知らなかった事実に、クラウンは思わず驚きの声を上げ混乱した。
 しかしその驚きも混乱も、すぐに恐怖に塗りつぶされる。

「あの騒動のせいで、我が家は今貴族としての立場を失いつつある」

 怒りと苛立ちが綯い交ぜになった瞳。
 ソレに真っ向から刺されて、俺は思わずギクリと体を強張らせる。

「社交界で最も重要なのは『周りからどう見えるか』だ」

 それが事実なのか。
 実際にはどんな意図があったのか。
 そんなものは大して意味を為さない。

 そう言った父の底冷えする様な声色に、背筋がサァッと凍りつく。

「デビュー早々、お前は周りから『令嬢を追い出した不届き者』だと思われている。お前は周りからのそういう目を払拭しなければならない。その為の大々的な和解だ」

 クラウンが父から向けられたのは、威圧の塊。
 そこには、まるで「拒否権を与えない」とでも言っているかの様な強制力がある。


 そんな圧に押されて、クラウンはコクコクと頷いた。

 ただそうしろとプログラムされた機械の様に、自分の頭でその必要性について考える余裕さえ、与えてもらえないままに。



 しかし少し経って落ち着くと、クラウンは再び不満を感じ始めた。


 悪い事など何もしていない俺が、何故お父様にあんな目で怒られなければならないのか。
 『追い出し』てなどいない俺が、何で和解なんて物をしなければならないのか。

(あまりに理不尽だ)

 そう思えば、その不満は怒りへと昇華される。
 そしてソレをぶつけるべき妥当な矛先を探し始め、そして見つける。

(――あの女め)

 グツグツと煮えたぎる感情を闇鍋の中へと次々に放り込んで、彼は静かに『その時』を待っていた。



 ↓ ↓ ↓
 当該話数の裏話を更新しました。
 https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413976970848

 ↑ ↑ ↑
 こちらからどうぞ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです

四馬㋟
ファンタジー
妹に婚約者を奪われた挙句、第二王女暗殺未遂の濡れ衣を着せられ、王国を追放されてしまった第一王女メアリ。しかし精霊に愛された彼女は、人を寄せ付けない<魔の森>で悠々自適なスローライフを送る。はずだったのだが、帝国の皇子の命を救ったことで、正体がバレてしまい……

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】異世界で急に前世の記憶が蘇った私、生贄みたいに嫁がされたんだけど!?

長船凪
ファンタジー
サーシャは意地悪な義理の姉に足をかけられて、ある日階段から転落した。 その衝撃で前世を思い出す。 社畜で過労死した日本人女性だった。 果穂は伯爵令嬢サーシャとして異世界転生していたが、こちらでもろくでもない人生だった。 父親と母親は家同士が決めた政略結婚で愛が無かった。 正妻の母が亡くなった途端に継母と義理の姉を家に招いた父親。 家族の虐待を受ける日々に嫌気がさして、サーシャは一度は修道院に逃げ出すも、見つかり、呪われた辺境伯の元に、生け贄のように嫁ぐはめになった。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~

石動なつめ
ファンタジー
半端者の公爵令嬢ベリル・ミスリルハンドは、王立学院の休日を利用して隣国のダンジョンに潜ったりと冒険者生活を満喫していた。 しかしある日、王様から『悪役令嬢役』を押し付けられる。何でも王妃様が最近悪役令嬢を主人公とした小説にはまっているのだとか。 冗談ではないと断りたいが権力には逆らえず、残念な演技力と棒読みで悪役令嬢役をこなしていく。 自分からは率先して何もする気はないベリルだったが、その『役』のせいでだんだんとおかしな状況になっていき……。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...