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第二章:初めての社交お茶会に出向く。
第7話 クラウンの言い分 -理不尽と闇鍋編-★
しおりを挟む「今日のお茶会に、オルトガン伯爵家の第二令嬢が来る」
父親のそんな声に、クラウンは自身の思考の中から引き戻された。
向かいの席に目をやると、明らかに不機嫌な父親がそこに座っている。
「お前は彼女と和解し、その光景を周りの貴族達に見せなければならない」
重苦しい、父親の声。
そこから彼の不機嫌さを察して、クラウンは思わず身じろぎする。
彼が不機嫌な理由は、何となく分かる。
おそらく先日呼び出された時に話に出た、『噂話』についての事だろう。
(だってこの間、それについて何かとっても怒られたし)
その理由は未だによく分からない。
分かるのは、怒られているという事実とそれが『あの女』のせいだという事くらいだ。
(だから、多分今のこれもソレ関係の話だと思うんだけど)
しかしだからこそ、クラウンは首を傾げ図にはいられない。
「あの、お父様。どうして俺が婚約者殿と和解しないといけないの……?」
意味が分からない。
そう言わんんばかりの困惑顔なクラウンに、父親は呆れのため息をつく。
「……先日の王城パーティー以降に流れている噂話、その事態の収拾を図るために必要なのだ」
その声に、クラウンはすかさず反論する。
「でもお父様、あの日も話したけど俺にはそんな噂を立てられる心当たりなんて無――」
「そうだとしても、必要なのだ」
社交として、必要な措置だ。
だからしのごの言わずにやれ。
視線でそう釘を刺されて、クラウンは少しムスッとした。
そして、呟く様に言う。
「だから、それで何で婚約者殿を相手にそんなことする必要があるんだ。今回の件と婚約者殿は、別に何の関係も無いじゃないか」
まぁ確かに非公式とはいえ婚約者がいる身で別の女の子にちょっかいを出したのは、ちょっとマズかったのかもしれない。
でもそれだって、結局は未遂に終わったのだ。
ならそれで話は終わりでいいじゃん。
グチグチと言われたその声は、本当に小さな物だった。
しかしすぐ向かいの父親に届くには十分な声量でもあった。
クラウンの言葉に、父は少し驚いた様な顔になった。
そして「あぁ」と疲れにも呆れにも似た息を吐くと、彼が気付いていない事実を教えてやる。
「クラウン、先日お前が言っていた『王城パーティーでの無礼者』がお前の婚約者だ」
「えっ?!」
知らなかった事実に、クラウンは思わず驚きの声を上げ混乱した。
しかしその驚きも混乱も、すぐに恐怖に塗りつぶされる。
「あの騒動のせいで、我が家は今貴族としての立場を失いつつある」
怒りと苛立ちが綯い交ぜになった瞳。
ソレに真っ向から刺されて、俺は思わずギクリと体を強張らせる。
「社交界で最も重要なのは『周りからどう見えるか』だ」
それが事実なのか。
実際にはどんな意図があったのか。
そんなものは大して意味を為さない。
そう言った父の底冷えする様な声色に、背筋がサァッと凍りつく。
「デビュー早々、お前は周りから『令嬢を追い出した不届き者』だと思われている。お前は周りからのそういう目を払拭しなければならない。その為の大々的な和解だ」
クラウンが父から向けられたのは、威圧の塊。
そこには、まるで「拒否権を与えない」とでも言っているかの様な強制力がある。
そんな圧に押されて、クラウンはコクコクと頷いた。
ただそうしろとプログラムされた機械の様に、自分の頭でその必要性について考える余裕さえ、与えてもらえないままに。
しかし少し経って落ち着くと、クラウンは再び不満を感じ始めた。
悪い事など何もしていない俺が、何故お父様にあんな目で怒られなければならないのか。
『追い出し』てなどいない俺が、何で和解なんて物をしなければならないのか。
(あまりに理不尽だ)
そう思えば、その不満は怒りへと昇華される。
そしてソレをぶつけるべき妥当な矛先を探し始め、そして見つける。
(――あの女め)
グツグツと煮えたぎる感情を闇鍋の中へと次々に放り込んで、彼は静かに『その時』を待っていた。
↓ ↓ ↓
当該話数の裏話を更新しました。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413976970848
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