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侯爵子息・クラウンの、はじめの一歩
第8話 友人と呼べる人(1)
しおりを挟むどこかずっと不安そうだったクラウンは、レガシーからのそんな言葉でやっと「自分は許されたのだ」と自覚したようだった。
安堵と喜び、そして決意。
色々な感情が綯い交ぜになった彼は、一度はグッと顔を引き締めるものの緩む口元を抑えきれないという、やや言い表すのが難しい表情になってしまっていた。
そんな彼の決意の部分に、セシリアは優しく触れる。
「『最初に』という事は、『次に』が貴方にはあるのですね?」
柔らかい、しかしそれでいて確信に満ちたその声に、クラウンはしっかりと頷く。
その上で「とはいっても」と言って、彼は苦笑してみせた。
「俺に出来る事といえば、今までの自分の態度を反省して同じ轍を踏まない様に気を付ける事くらいだが」
その声に、セシリアは「それで良い」と言いたげに頷き返す。
実際、彼に出来る事などほぼ何も無いのだ。
「周りとの関係改善の為に。自分自身でも何か」とはクラウンも考えたのだが、殊は今や社交に影響する所まで来てしまっている。
そうでなくともクラウンはまだ、貴族同士のルールも何もかもをよく知らない。
今までは爵位の上に胡座を掻いていたせいで「不要だ」と思っていた物が、実は必要だったと分かって、しかしそうと分かったところですぐに全てが頭に入る訳じゃない。
そんな状態で今すぐに表立って独断で何かをしたとして、もしそれが状況を更に悪化させてしまえば。
そんなのは目も当てられない。
そうと分かれば、社交関連については必然的に現在進行形ですでに奔走している両親に任せる他は無いのである。
その上で今の彼自身に出来る事が何かあるとするならは、それは彼が今言ったように『せいぜい今以上に状況が悪化しない様に、自身の言動に思い当たる範囲で最大限注意する』事くらいなのだ。
「自分の事なのに、自分では何も出来ない。それはちょっと歯痒いけどな」
そう言って「仕方がない」と笑う彼には、鬱々としたものは微塵も無い。
清々しい程に過去を良い意味で振り切った彼の姿を前にして、セシリアは「ふむ」と少し考える素振りを見せた。
そしてニコリと笑い、彼に言う。
「では、貴方が抱えている『友人に関する課題』について、1つだけ」
これからの彼に贈る贐(はなむけ)として、簡単な助言のような何かをしてみようと思う。
「派閥の構成員の一人ではなく貴方が本当に『友人』を探したいと思うのなら、自身の回りに勝手に集まる方々をただ漫然と受け入れるのではなく、ご自分の目で選んだ方が良いでしょう」
そんなセシリアの言葉に、クラウンはフッと真剣な顔になって尋ねて来る。
「自分で選ぶ』というのは、傲慢な考え方ではないか・・・・・・?」
それは、糾弾でも訝しみでもない。
あくまでも純粋な疑問を言葉にしたようだった。
そんな彼に、セシリアは自身の言葉の意図を告げる。
「人にはそれぞれ個性という物があります。そして人が誰を『気の置けない相手』と思えるかは、互いの相性次第です。だからこそ、自分と相性の合う相手は自分自身で選ぶ事が大切なのです」
彼は少々『傲慢さ』に敏感になりすぎている。
だから「大丈夫」と伝えるために、彼に向かって微笑みかける。
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