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第14話 褒めている様で強要してる。分かってますよ? 王妃様。
しおりを挟むそれが先日のパーティーで起きた婚約破棄の事だというのは、すぐに分かった。
しかし令嬢の経歴に『婚約破棄された』なんていう大きな傷を付けておいてよくもそんな事が言えたものだ。
今まで常々「殿下と王妃様は似てないな」と思っていたが、こういう無神経な所はもしかすればちょっと、似てるかもしれない。
この場合、返すべき言葉は一つしかない。
しかしそれを、私は敢えて言わなかった。
「えぇもう本当に驚きました。まさか殿下があそこまでリズリーさんの事を想っていらっしゃるとは思っておらず……これはもう私の出る幕ではないと思い、潔く身を引かせて頂きましたわ」
そんな声に、ほんの一瞬ほんの少しだけ、王妃様の片眉がピクリと反応したのが分かった。
彼女が私を「家族同然」という程に、私と王妃様の繋がっていた期間は長い。
だから分かる。
これは何か気に食わない事があった時の仕草である、と。
「あらあらエリザベート、いけませんね。状況を鑑みれば今回のような事が起きるのは最早必定だったでしょう? ならば自身の立場に相応しい行動を取らなければ」
つまり「食い下がれと」言いたいのか。
嫌である。
私は王族の仲間入りをする事をとうとう自分の義務以上には思えなかったし、殿下を愛する気持ちも無い。
そんな状態で、見るからに面倒そうな泥沼に、どうして足を突っ込みに行かねばならないのか。
「王妃様、私はこれでも殿下の事を考えて決断したのです」
そう言って、無理矢理悲しげな顔を作る。
「私はずっと、殿下がすべき様々な事を「少しやり過ぎていたな」とあの時反省したのです。殿下が私から離れ独り立ちなさろうとしているのを見て、「私の役目は終わったのだ」と思いました。私は全てを背負おうとしてしまいましたが、リズリーさんとなら殿下は手に手を取り合って2人で苦楽を共に出来るでしょう」
正直言って、リズリーには文官としての才も外交官としての才も無いと思う。
彼女に出来る事と言えば、精々疲れた殿下の精神的な支えくらいなものだろう。
しかしそれで良いんじゃないか。
愛に生きると決めた殿下なのだから、きっとそのくらいの苦労は厭わないだろう。
精々馬車馬のように働けば良い。
「ねぇエリザベート、反省出来る事は美徳よ? だって次に活かせるのだから」
だから心を入れ替えて、まだまだ殿下のために尽くせ。
そう言いたいのだろうが嫌である。
絶対に、嫌である。
「その機会が私にはもうありません、王妃様」
「あるじゃない。王子は貴女に、もうそれを示した筈よ?」
なるほどそれは、先日の学校で論争になった生徒会業務の件を言ってるのか。
……否、この王妃の事である。
きっとこの先も、私を似た様な事に使う算段を立てているに違いない。
一つ折れればなし崩し的に一生使われる。
彼女はそれを当然の様に相手に強要できる人だ。
「王妃様、私はもう自分に見切りをつけました。私が殿下を支える事は、やはり荷が重かったのです」
「そんな事無いわ、貴女は良くやっていた。書類仕事から方々の調整、トラブルの対処まで。あれほど周りに目端が効き、的確に指示が出せるのです。貴女は王子を支える力を十分持っている」
彼女が何故こんな事を言うのかは分かっている。
学校でのあの騒動から1週間が経ち、殿下達今の生徒会メンバーは次の学内行事の為に慌ただしく動いているのだ。
私がするだろうとたかを括って、全てを放置していたのが良くなかった。
例年のスケジュールから遅れた作業開始、普段は勝手に終わっている仕事を山積みにされて、彼らは今てんてこ舞いだ。
お陰で方々への調整が雑になり、幾つもの齟齬が発生している。
先日は廊下のど真ん中で、殿下付きの近衛騎士隊長の息子が「良いから言う通りにしろ!」と声を荒げているのを見た。
まぁ彼は元々脳筋で、全てが根性で片付くと思っている節がある。
大方作業時間の計算もろくにせずに「明日までに全部やっとけ」とか、そんな無茶振りをしたのだろう。
まぁそんなこんなで、今生徒会の評判は悪い。
私側に偶々見たのがソレだったというだけで、実際にはもっと支障が出ているらしい。
そのせいで、周りは最近こんな事をヒソヒソと囁いている。
「1人抜けただけてこんなにガタガタになるとか」
「それだけエリザベート様の貢献が大きかったという事ですよ」
「やはり采配もエリザベート嬢がしていたんだな、じゃないとここまで悪くはなっていない」
「元々采配は会長である殿下の仕事だったでしょうに」
そんな周りの声達を、王妃様もそれを知っているのだろう。
だから私に言っているのだ。
手伝いなさい、と。
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