19 / 21
第14話 褒めている様で強要してる。分かってますよ? 王妃様。
しおりを挟むそれが先日のパーティーで起きた婚約破棄の事だというのは、すぐに分かった。
しかし令嬢の経歴に『婚約破棄された』なんていう大きな傷を付けておいてよくもそんな事が言えたものだ。
今まで常々「殿下と王妃様は似てないな」と思っていたが、こういう無神経な所はもしかすればちょっと、似てるかもしれない。
この場合、返すべき言葉は一つしかない。
しかしそれを、私は敢えて言わなかった。
「えぇもう本当に驚きました。まさか殿下があそこまでリズリーさんの事を想っていらっしゃるとは思っておらず……これはもう私の出る幕ではないと思い、潔く身を引かせて頂きましたわ」
そんな声に、ほんの一瞬ほんの少しだけ、王妃様の片眉がピクリと反応したのが分かった。
彼女が私を「家族同然」という程に、私と王妃様の繋がっていた期間は長い。
だから分かる。
これは何か気に食わない事があった時の仕草である、と。
「あらあらエリザベート、いけませんね。状況を鑑みれば今回のような事が起きるのは最早必定だったでしょう? ならば自身の立場に相応しい行動を取らなければ」
つまり「食い下がれと」言いたいのか。
嫌である。
私は王族の仲間入りをする事をとうとう自分の義務以上には思えなかったし、殿下を愛する気持ちも無い。
そんな状態で、見るからに面倒そうな泥沼に、どうして足を突っ込みに行かねばならないのか。
「王妃様、私はこれでも殿下の事を考えて決断したのです」
そう言って、無理矢理悲しげな顔を作る。
「私はずっと、殿下がすべき様々な事を「少しやり過ぎていたな」とあの時反省したのです。殿下が私から離れ独り立ちなさろうとしているのを見て、「私の役目は終わったのだ」と思いました。私は全てを背負おうとしてしまいましたが、リズリーさんとなら殿下は手に手を取り合って2人で苦楽を共に出来るでしょう」
正直言って、リズリーには文官としての才も外交官としての才も無いと思う。
彼女に出来る事と言えば、精々疲れた殿下の精神的な支えくらいなものだろう。
しかしそれで良いんじゃないか。
愛に生きると決めた殿下なのだから、きっとそのくらいの苦労は厭わないだろう。
精々馬車馬のように働けば良い。
「ねぇエリザベート、反省出来る事は美徳よ? だって次に活かせるのだから」
だから心を入れ替えて、まだまだ殿下のために尽くせ。
そう言いたいのだろうが嫌である。
絶対に、嫌である。
「その機会が私にはもうありません、王妃様」
「あるじゃない。王子は貴女に、もうそれを示した筈よ?」
なるほどそれは、先日の学校で論争になった生徒会業務の件を言ってるのか。
……否、この王妃の事である。
きっとこの先も、私を似た様な事に使う算段を立てているに違いない。
一つ折れればなし崩し的に一生使われる。
彼女はそれを当然の様に相手に強要できる人だ。
「王妃様、私はもう自分に見切りをつけました。私が殿下を支える事は、やはり荷が重かったのです」
「そんな事無いわ、貴女は良くやっていた。書類仕事から方々の調整、トラブルの対処まで。あれほど周りに目端が効き、的確に指示が出せるのです。貴女は王子を支える力を十分持っている」
彼女が何故こんな事を言うのかは分かっている。
学校でのあの騒動から1週間が経ち、殿下達今の生徒会メンバーは次の学内行事の為に慌ただしく動いているのだ。
私がするだろうとたかを括って、全てを放置していたのが良くなかった。
例年のスケジュールから遅れた作業開始、普段は勝手に終わっている仕事を山積みにされて、彼らは今てんてこ舞いだ。
お陰で方々への調整が雑になり、幾つもの齟齬が発生している。
先日は廊下のど真ん中で、殿下付きの近衛騎士隊長の息子が「良いから言う通りにしろ!」と声を荒げているのを見た。
まぁ彼は元々脳筋で、全てが根性で片付くと思っている節がある。
大方作業時間の計算もろくにせずに「明日までに全部やっとけ」とか、そんな無茶振りをしたのだろう。
まぁそんなこんなで、今生徒会の評判は悪い。
私側に偶々見たのがソレだったというだけで、実際にはもっと支障が出ているらしい。
そのせいで、周りは最近こんな事をヒソヒソと囁いている。
「1人抜けただけてこんなにガタガタになるとか」
「それだけエリザベート様の貢献が大きかったという事ですよ」
「やはり采配もエリザベート嬢がしていたんだな、じゃないとここまで悪くはなっていない」
「元々采配は会長である殿下の仕事だったでしょうに」
そんな周りの声達を、王妃様もそれを知っているのだろう。
だから私に言っているのだ。
手伝いなさい、と。
20
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
鮒捌ケコラ
ファンタジー
1週間後、私は退学します。
王都にある薬師の名門ブレルスクに入学した私は、3週間目にしてとある教員から『1週間後の退学」を言い渡されました。
これでも、学園には至極真面目に通って来たつもりです。
テストは平均点で、授業は無遅刻無欠席。
日々の勉学とアルバイトの両立をこなしつつ、親しい友人との学園生活もエンジョイしていました。
どんな事があっても慌てず、騒がず、落ち着いて…………憤りは全てこの長い前髪の下に隠して過ごして来ました。
そんな日常も近いうちに失われます。
これが、一時の感情で教員に反論した結果という事でしょうか。
しかし、私は何の悔いもありません。
常々、無知な教員達に、怠惰な先輩に、険悪な貴族子息に、何よりこの学園の腐り果てた風潮に辟易していました。
だから、王都を脱出して故郷で再び森番に就く良い口実だと考える事にしました。
そして、退学が決定しているなら大人しく授業を受けるつもりはありません。憤りを前髪で隠す必要もありません。
……てな訳で、王都にある薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる