9 / 21
第7話 可哀想? えっ、誰がです?
しおりを挟む「殿下、先生伝手に私が既に生徒会から籍を抜いている事はお伝えしたと思いますが」
「あぁそれは聞いている」
では何故「次の仕事をしろ」だなんて話になるのだろう。
思わず首を傾げれば、殿下は何故か「何故そんな当たり前の事を」と言いたげな顔になる。
「便宜上籍は抜いても、お前は公爵令嬢だ。そして、生徒会活動は国を背負う人間の義務。公爵家という家柄ならば従事して当たり前だろう」
何だその暴言は。
私は思わずそう思った。
だってそうだろう。
籍がないという事は、その人間の名前は活動成果に載らないという事だ。
つまり行った仕事が、本人の名で評価される事は無い。
彼が今言ったのは「お前は仕事をしろ。手柄は俺がいただくけどな」という事である。
これを暴言と言わずに、一体何と言えば良い。
彼はどうやらこの論理に、絶対の自信があるようだった。
しかし私からすれば、どうしようもなく穴ボコだらけだ。
「……やはり私が仕事を行う必要性を感じません」
「何?」
「私が生徒会に所属しその仕事を行なっていたのは、殿下を補佐すべき『婚約者』という立ち位置にあったからに他なりません。もし私が『公爵令嬢だから』という理由で働く必要があるのでしたら、ヴィラン様もここにお呼びすべきです」
その指摘に、殿下の顔が嫌そうに曇った。
ヴィラン様というのは、公爵家の第一子息だ。
いつだって歯に絹着せぬ物言いをする人なので、権力で周りを振り回す殿下とは絶対的に性格が合わない。
互いに互いを嫌っている上に、彼の方は「嫌いな奴には近寄らない主義」の持ち主なので2人は滅多に顔を合わせない。
が、一度エンカウントしてしまうと大変な事になる。
まぁ大抵の場合、殿下が理不尽なゴリ押しを誰かにしようとしているのだから、悪いのは殿下なのだが。
つまり何が言いたいのかというと、こういう事だ。
生徒会長である殿下は、他メンバーの任命権を持っている。
しかし「嫌いだから」という理由で、入会資格を持つヴィラン様を、殿下は敢えてメンバーから外した。
その代わりの人数埋めの為に、腰巾着で自分に対して従順な侯爵子息をメンバーに加えた。
そんな事実がある以上、私を『公爵令嬢だから』という理由で生徒会に縛る事は出来ない。
私の指摘は尤もで、尚且つ殿下にとっては1番触られたくない所だったのだろう。
彼の顔がクシャリと歪んだ。
するとリズリーが口を挟む。
「殿下にだって、人の合う合わないはあると思います! そんな事で責めるのは、殿下が可哀想ですよ!」
「リズリー……」
庇ってくれたリズリーに、殿下が熱い視線を向ける。
しかし、彼女の言葉は間違っている。
確かに人には相性の良し悪しがあるだろう。
しかしそれを理由に仕事が疎かになる様な事は、決してしてはならないのだ。
殿下の立場ならば、尚更。
「リズリーさん、貴方のソレは優しさではなく甘やかしです。練習の今甘やかして、もし本番出来なかったら。その時どれだけリズリーさんが慰めようとも、殿下の社会的評価は変わらないのですよ」
リズリーは殿下を愛している。
きっとこの先の人生、彼と共に歩む事を選ぶだろう。
ならば一層、これは知っておかねばならない。
国事でした失敗は、決して取り返す事は出来ない。
後でどんなに頑張っても、一度失ったものは完全に元には戻らない。
失われた命は決して戻らず、国事における一つのミスは、簡単にそういった『事故』を起こし得る。
そしてその時真っ先にその被害を受けるのは、何を隠そう平民なのだ。
王族の仕事は重い。
一見『そう』は見えなくても、見えない所で割を食う人間が居る。
そういう仕事をしているのである。
だからきちんとした自覚を持って、仕事をする。
それは王族教育の一つとして数えられる考え方だ。
そしてそれに倣うためには、例え嫌いな人間でも適格者を遠ざけてはならない。
これは生徒会発足当時、口を酸っぱくして殿下に言った事でもある。
しかしそれを、彼は聞き入れてはくれなかった。
彼以上の権力を持たない私には、結局のところ進言は出来ても強制は出来ない。
だから当時は諦めた。
しかし、だからこそ今、それを盾にして私は戦う。
それ程までに、理由なくただ殿下に使い潰されるのは嫌だ。
「エリザベート様は、殿下の事を助けてあげたいとは思わないんですかっ?!」
心優しいリズリーが言う。
彼女は全く気付いていない。
王族である殿下に対してただの伯爵令嬢が「あげたい」だなんて、まるで施しの様な言葉を使う。
それが酷く傲慢なものだという事を。
そして殿下も気付いていない。
彼は今、そのお優しいリズリーにかなり夢中だ。
だから私は。
(なら、ちょうど良いじゃない)
そんな風に、心の中で呟いた。
20
お気に入りに追加
296
あなたにおすすめの小説
名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
鮒捌ケコラ
ファンタジー
1週間後、私は退学します。
王都にある薬師の名門ブレルスクに入学した私は、3週間目にしてとある教員から『1週間後の退学」を言い渡されました。
これでも、学園には至極真面目に通って来たつもりです。
テストは平均点で、授業は無遅刻無欠席。
日々の勉学とアルバイトの両立をこなしつつ、親しい友人との学園生活もエンジョイしていました。
どんな事があっても慌てず、騒がず、落ち着いて…………憤りは全てこの長い前髪の下に隠して過ごして来ました。
そんな日常も近いうちに失われます。
これが、一時の感情で教員に反論した結果という事でしょうか。
しかし、私は何の悔いもありません。
常々、無知な教員達に、怠惰な先輩に、険悪な貴族子息に、何よりこの学園の腐り果てた風潮に辟易していました。
だから、王都を脱出して故郷で再び森番に就く良い口実だと考える事にしました。
そして、退学が決定しているなら大人しく授業を受けるつもりはありません。憤りを前髪で隠す必要もありません。
……てな訳で、王都にある薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら
風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」
伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。
男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。
それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。
何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。
そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。
学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに!
これで死なずにすむのでは!?
ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ――
あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる