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さぁ冒険に出てみよう編
第37話 一方その頃母国では(6) ~届いた手紙にシンは笑う~(2)
しおりを挟むそこには特に憐憫など無い。
むしろ喜ばしいくらいだ。
だって彼は知っているから。
あいつの神髄は、決して名乗る家名や立場になんて依存しないものだって。
「って、ちょっと臭い事を考えた」
そう呟いて苦笑しつつ、彼は手紙の封を切った。
中に入っていた便せんは一枚だけで、それを開くと「元気か?」という簡素な言葉からスタートしていた。
読んでみると、どうやら隣国・ノーラリアの首都を目指したらしい。
これを書いた日に到着して、当分はそこに留まる予定……と書かれている。
もう着いたところを見ると、ほぼ休みなしで馬車に乗っていったらしい。
そのストイックさもさる事ながら、それ以上に「寄合馬車に乗るのが夢だったんだ」と書いてあり、大いに楽しんだらしい。
「また変なところに憧れたものだな。抱くにしても、もうちょっと何かあっただろうに……」
しかしまぁ、そういう小さな事を「俺の夢!」と言い切ってしまえる辺りが、なんともアルドらしくて笑える。
が、笑えたのはここまでだ。
「『途中で魔獣と遭遇して、しかもそこで獣人を保護』?! おいおい何やってんだよまったくお前は……」
「なんて運の悪い」という気持ちと「このお人好しが!」という気持ちでシンは深くため息を吐く。
正直言って、災難は仕方がない。
遭遇したからには、どうにかするのも仕方がない。
が、「廃嫡になって国から出ようとしている人間が更に面倒事をしょい込もうとしてどうするんだ」と思わずにはいられない。
が、執事の反応はやや違う。
「おや、アルド様らしいではありませんか」
そう言ったこの執事は、シンが生まれる前からこの家に仕えているヤツで生まれた時からシンのお付きだ。
当然ながら乳母兄弟のアルドの事も知っているし、何なら成長過程も見てきている。
「アイツの何でも放っておけない所は短所だ」
執事に抗議するようにそう言葉を返してやれば、彼は微笑ましそうに笑う。
主人が苦い顔になっているというのに、いい気なものだ。
因みにどうやらアルドと共に、その獣人も無事国境を渡れたらしい。
が、「クイナはスルーされたのに、俺が危うく国境で捕まりそうになってしまった」って何だコレ。
色んな所に突っ込みどころが満載だけど、とりあえず怪我も無く追手と交戦する事も無く国外に出られたという事で、「王族の奴ら何やってんだ? 色々バカなの?」と「まぁ無事についたようで何よりだ」という感情がシンの中にそれぞれ生まれた。
が、全てを読み終わり畳み直した手紙を机の上に置いたシンの口から最後に漏れたのは、こんな一言。
「あの面倒見の良いアルドが、一度助けた子を途中で手放す……ねぇ?」
アルドが最後に綴っていた予定を思い出し、閉じた手紙をスルリと撫でる。
その表情は、思わずといった感じの苦笑だった。
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