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隣の国への道中、モフっ子との出会い編

第10話 旅は道連れ世は情け

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 多分この子は、隣のリドニア帝国からの亡命者なのだろう。

 あそこは獣人を合法的に奴隷として扱っている。
 自由を求めてそこからこの国に非合法的にやってきた。
 そして途中で死んだ母親の言いつけを守って、彼女はとある場所を目指している。

 彼女は『ニョッキ山』と言っているが、おそらく『ニョシキ山脈』の間違いだ。
 まぁ、人族しか居ないこの場所で誰かに道を聞ける筈もない。
 名前なんて合ってようが間違ってようが関係ないのかもしれないが。

「多分君のお母さんは、帝国からこの国を経由してノーラリア国に行くつもりだったんだろうな……」

 俺がそう呟いたのは、ニョシキ山脈の方角にあるのが正にノーラリア国だからに他ならない。
 
 この国での獣人の扱いも、帝国ほどではないにしてもお世辞にも良いとは言えないし、この方角で子供と一緒に安心して暮らせるところと言えば、ノーラリア国を目的地に選ぶのは道理に叶う。


 俺は他種族が虐げられるのは好きじゃない。
 それがこんな年端も行かない子ならば尚更だ。

(それに丁度馬車の旅で、実は自分が結構子供好きだったって言うことも自覚したところだし)

 そう。
 そんな俺だから、一つ彼女に建設的な提案が出来るのだ。

「ねぇ君、俺と一緒に来る気はないか?」
「……へ?」
「俺の行き先は、丁度あの山の方角。多分君がお母さんと一緒に目指していた場所なんだ。獣人も普通に暮らしてる国だから、そこまで行けば君が怖い目に遭う確率だってぐっと減る」

「道中は、俺が君を助けてあげられる。その国に着いた後は……俺は寂しい一人旅だから一緒に居てくれると嬉しいけど、君の好きな様にしたらいい」

 彼女の行動を縛るつもりはない。
 ただ最低限、危なくない所までは俺に君の旅の手伝いをさせて欲しい。
 彼女と出会った偶然を、出来れば幸運にしてあげたい。
 俺が思うのは、ただそれだけなのである。


 俺がそんな気持ちを伝えている間、彼女はしきりに目をパチクリとさせていた。
 しかしやがて、彼女はおずおずと聞いてくる。

「あの……お鍋にしたりしない?」

 そもそもが怯える小動物系なのに、縋るような上目遣いをしながら真面目にそんな事を言ってくるので、可愛らしさに思わず笑いそうになる。
 しかしそれは愚策だろう。
 だから努めて真面目な顔を作り「しない、絶対だ」と誓う。
 
 するとそれから数秒間の沈黙の後、彼女はコクリと肯首した。


 色好い返事に今度こそ素直に微笑みながら、俺は彼女に手を伸ばす。

「行こう」
「……うん、なの」

 恐る恐る伸ばされた彼女の手が、ふわりと俺の手の上に乗る。
 そこに確かな体温と重みを感じ取り、俺はその手をきちんと握った。

 運良く見つけて、助けられた小さな命だ。
 だから大切に大切にその手を握り歩いていく。

「そうだ。俺はアルド。君の名前は?」
「クシナっていうの」
「そうか、クシナか」

 そんなやり取りをしながら彼女の姿を密かに観察してみると、耳の他にも獣人の特徴である尻尾がある。

「うーん、耳からして犬……いや、尻尾が太いから狐かな?」
「そう、狐なの」
「そっか。狐って、何か食べられないものとかあるのかな……」
「クシナは何でも食べるけど、お肉のお菓子が大好きなの」
「お菓子は無いけど、お肉なら干し肉があるよ」

 グゥー。

「……」
「何か今、お腹が勝手に返事したね……?」
「してないの。でも、食べてあげても別にいいの」

 そんなやり取りをしながら、二人して森を歩く。
 目指すは先程降りた馬車。
 それに乗って再び出発である。

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