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兆し

第6話 瞳の奥の可能性(2) ★

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 この問いは、セシリアによる『準備』であり『試験』でもあった。

 今からする話を聞いて逆恨みする事がない様に現地を取ると共に、同時に彼に「これからするのはとても厳しい話だ」と先に教える事で心の準備をさせる。
 そして彼が持つ「現状を何とかしたい」という気持ちにきちんと覚悟が伴っているのかを確認する。

 もし覚悟が無いのなら、幾ら彼に時間を割いたところで無駄だ。
 少なくとも、無駄にかける労力も時間も、セシリアには無い。

 つまりこれは、正しく最後の意思確認だった。


 そんなセシリアの問いに、クラウンはまず一度分かりやすく怯んだ。
 相手の内心を見通さんばかりのその瞳に恐れを抱き、次にゆっくりと彼女の言葉の意味を理解して、その内容に躊躇し視線を下げる。

 知るのが怖い。
 でも、後がない。
 そんな逡巡が彼の心に見てとれた。

 しかし。

 彼は自らの拳をギュッと握りしめる。
 そして再び視線を上げた彼の瞳には、確かな覚悟が灯っていた。


 大きく一度、コクリと頷いた彼に、セシリアは今日一番の『明確な意志』を感じ取った。
 そんな彼に、セシリアのメリドットの瞳が、煌めく。


 稀に「大事に見舞われた時、人の価値観は変わる事がある」と言われる。
 
(もしかしたら、彼にとっては今が正に『その時』なのかもしれない)

 不意に、そう思う。



 セシリアは、自分の中に眠る一つの信条を思い出していた。

 面倒なこと程『効率的』に。
 それともう一つ、同じくらい大切な事。

 『間違いを正す機会は、誰にだって与えられるべき』という、信条を。


 たった一度の過ちで、やり直す機会を与えずに断罪する。
 それが現在の裁きの傾向だ。

 『不敬罪』を筆頭とした権力者が下の者に対して行う断罪は、特にその傾向が強い。
 だからこそ、この世界には『やり直しの効かない現状』が蔓延っている。

(でも人は、どうしたって間違う生き物だから)

 彼に自分を正そうとする『意志』があり、自分の力で立ち上がろうともがくのなら。
 
(そんな相手になら、ほんのちょっとだけ手を貸す人間が一人や二人居ても良い)

 そう、セシリアは思うのだ。


 そして。

(これは、確かに彼の無知と怠慢が作り出した事態だ。でも彼は、そんな自分の無知に気付き、怠慢を捨てると決めた)

 そんな彼の中に、セシリアは確かな可能性を見た。

 つまり。

(今のクラウン様になら、『言葉を尽くす』という労力を自身に課しても良いんじゃないか)

 セシリアはこの時、そう思ったのだ。




 ↓ ↓ ↓
 当該話数の裏話を更新しました。
 https://kakuyomu.jp/works/16816410413976685751/episodes/16816410413991649469

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