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兆し

第4話 無自覚で鈍感な友人(2)

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 初めて出来たこの友人は、いつもは頭もきれて色々と察してくれるのに、変なところで無自覚な上に鈍感だ。

 羞恥に顔を染めながら、この日レガシーはセシリアへの認識をそういう風に改めた。

 そして「その羞恥を吹き飛ばす為にも」と、レガシーは別の話題を振ってみる事にする。

「因みに僕が聞いた君の噂話、もう1人の当事者がそのせいで少し大変な事になってるみたいだけど、それについてはどう思ってるの?」

 大変。
 その言葉を聞いて、セシリアはすぐに合点がいった様な顔になった。
 
「それはきっと、クラウン様の事ですね?」

 そう問われ、確かそんな名前だったとレガシーも頷く。


 噂は少し聞きかじっただけだが、それでもそのクラウンという名の彼が今苦しい立ち位置に居る事はレガシーにも容易に理解できた。

 その事に関して、彼女は「いい気味だ」と思っているのか、憐んでいるのか。
 レガシーはそれが知りたかったのだ。


 そんな彼の問いに、セシリアはほんの一瞬、考えるような素振りを見せた。
 しかしすぐに、何とも形容し難い困った様な顔になる。

「どう思うかって言われても……別に、何も?」
「何も?」
「えぇ」

 思わず聞き返したレガシーに、セシリアはそう即答した。
 そしてまた少し考える時間を要してから、またゆっくりと口を開く。

「私の『仕返し』はもう終わりました。彼に悪感情は持っていません。その一方で確かに大事になってはいますけれど、それだって元を正せば彼の自業自得です。憐れむ必要も無いでしょう」

 そんな彼女の言葉に、「そんなものなのか」と独り言ちる。
 目を伏せ、少し思考を巡らせた。

 しかし幾ら考えても、彼女の心情がいまいち上手く理解できない。


 どれだけ感情を排除しようと努めても、どれだけ割り切ろうとしても、普通は少なからず根っこの感情が残る。
 もう済んだ事だからと、そんなにサッパリ気持ちを切り替える事が出来るものなのか。

(少なくとも僕は、一度誰かと関わり合ってしまえば、何だかんだで気になってしまうんじゃないかな)

 抱いた感情が、正の感情にしろ、負の感情にしろ。

「――君ってやっぱり、ちょっと変わってる」

 レガシーがそう呟いた時だった。
 2人に向かって近付いてくる足音が聞こえてくる。


 その事には、きっとほぼ同時に気が付いたが、レガシーはあまりその事を気にしなかった。
 レガシーの近くに人がやってくる事なんて珍しい事ではあるが、今は隣にセシリアが居る。
 1人で居た頃よりは、余程近づきやすくもなっているだろう。
 
(きっと休憩でもしにきたんだろう)

 そんな風に頭の端の方でチラリと考えただけだった。

 そして反応しないという選択肢を取ったのは、セシリアの方も一緒だった。

「あぁ、そう言えばレガシー様――」

 まるで何かを思い出したかのように話しかけてきた。
 しかしそんな彼女の言葉を遮るように、別の言葉がかけられる。
 
「……セシリア・オルトガン」

 セシリアの名を呼ぶ、少年の固い声。
 それは足音の主と同じだった。

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