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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第42話 アルドの友達、ご紹介

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「お待ちどうさま」
「ありがとうなの!」
「じゃぁみんなで……かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
「乾杯なのー!」

 今日も相変わらず元気で陽気な人たちだ。
 クイナのジュースも、こうしてたまに奢ってくれる。
 最初は「払う」と言っていたのだが、何度言っても彼らは「良い酒の肴だからな、クイナちゃんは」と言って固辞するので、いつからかその好意に甘えるようになった。

 振り返ってその様子を見ていたシンが「すげぇなクイナ、大人気」などと言って笑っている。

「きっとあれがクイナさんの人徳、なのでしょう」
「ノーチ、お前もちょっとはクイナを見習えー?」

 カラカラと笑いながら言ったシンに、セイスドリートの隣で愛想のない顔を更に険しくするノーチ。
 そのやりとりに、俺は思わず「クイナを?」と怪訝な顔になる。

 すると彼は「あぁそういえば言ってなかったな」と前置いて、彼がシンとセイスドリートについてきた理由の一端を明かした。

「実はコイツ、騎士団で上手くやれてないらしくて。この通りいつも無口で仏頂面だからチームプレイに向かないってんで、レングラムさんから『ちょっと新しい風に触れてこい』って俺達に同行する事になったんだよ。まぁ本当はあのオッサンが一番来たかったみたいだけど」

 そこは本気で止めておいた。
 笑いながらそう言った彼に、俺は心の底から感謝する。

 王国最強の騎士が国に不在だなんて国的にはあっていいような事態じゃないし、そのせいでもし何か起きたら不在の理由を調査するだろう。
 そんな事で俺の所在が分かろうものなら、今の生活を壊される。
 

 しかしまぁ、確かに静かなヤツだなぁとは思っていたが、そんな理由で同行していたなんて。
 一応護衛の意味はあるんだろうが、それだけなら正直言ってセイスドリート一人で事足りる。
 何かおかしいと思っていたのだ。

「まぁ新しい場所に身を置いてみるのは良いと思うぞ?」

 必ずしも彼に変化が訪れると断言はできない。
 こういうのはやはり、本人が変わらなければならないと思っているか否かにもよるんじゃないかと思うし。

 が、平民暮らしへの漠然とした憧れを抱いていた当初と比べて、少しは『国民に寄り添う』ではなく『国民の一員になる』事が出来ている様な気がする。
 少なくとも俺には変化があった。 

 彼さえ望めば、きっと変われると思う。
 幸いにも、ここにはソレを見守ってくれる優しい人が多いのだから。


 などと思っていると、ガヤガヤとした室内から潜める気が微塵もない声が聞こえた。

「なぁなぁクイナちゃん、それであの連れは誰なんだい?」
「みんなアルドのお友達なの!」
「へぇ。見ない顔だな」
「街の外から人たちなの! クイナも今日会ったばっかりだけど、皆良い人たちなの!」

 彼等の問いに、両手をいっぱいに広げてそう言ったクイナは、さながら演説でも始めたかのようなオーバーな手振りである。
 すると酔っ払いの内に一人が、そんなクイナを肴にしだした。

「どんなヤツ等なんだ?」
「えっとねぇ、セイスさんは優しいの! アルドと同じくらい物知りでとってもニコニコなの!」
「ふぅん? そのセイスさんってのはどれだ?」
「おじいちゃん!」

 まぁ諸々間違ってない。
 が、『俺と同じくらい物知り』っていうのは、ちょっと俺の事を買いかぶりじゃなかろうか。
 知識面でも年の功でも全く敵う気がしないんだが。

「何だか少し照れますね」

 そう言ってほのほのと笑うセイスドリートは、確かにクイナの説明通り「優しいおじいちゃん」である。

「それでね、ノーチさんは穴掘り名人なの!」
「穴掘り名人?」
「うんなの! 今日お庭に野菜の苗を植えたの。その時沢山掘ってくれて、ピッタリ完璧な深さだったの! 中々出来る事じゃないの!!」
「で、どれだ?」
「おじいちゃんのお隣さんのお兄さんなの!」

 一体何目線の評価なのか、そしてクイナは何故他人事にドヤ顔なのか。
 その辺の不明点が半端ないが、彼女が楽しそうなのでまぁ良しとしよう。

「……」

 当の本人はノーコメントだが、心なしか戸惑い半分照れ半分……という感じに見えなくもない。
 しかしこちらも、クイナは意外と的を射ている。
 さっきの話だけを聞くと『人と協調するのが苦手』という印象だが、実際には『自身がすべきことを黙々とする仕事人』という印象だ。
 問題点は気持ちではなくコミュニケーションスキルの方にある気がする。

「で、あのアルドの隣に座ってるやつは?」

 誰かがそう言った時、隣でシンが胸を張る。
 酒飲みたちの視線が集まっているから、という事もあるのだろうが、何よりもクイナに褒められる事を信じて疑っていない感じだ。

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