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第三章:クイナとシンの攻防戦!
第39話 セイスドリートの『少し面白い魔法』
しおりを挟むという事で、植えていく。
楽しそうなクイナと俺の二人三脚、そんな俺達とおしゃべりしながら同じペースで植えていくセイスドリート。
対するシンは苗をすべて置き終わったかと思ったらこっちのペースなんてお構いなしに逆からちゃっちゃと植えていき、なんか途中からポットを植える穴が既に開いてるなと思ったら、騎士・ノーチが黙々と穴を掘る職人と化していた。
ノーチが掘った穴にクイナが恐る恐ると言った感じで苗を入れ「……深さ、クイナよりもピッタリなの!」と驚愕の顔を向けてきた時には、俺もセイスドリートも揃って思わず吹き出した。
そしてもれなく「何で笑うのーっ?!」と怒られたんだが、世紀の大発見とも言いたげな真顔で驚愕したクイナが悪い。
結局最後には穴掘り職人・ノーチの手を借りたのに半分以上をシンが植え「意外と面白いなぁコレ」と清々しい汗を拭いながら言っていた。
シンはどうやら『初めての土いじり』にそれなりの達成感を抱いたらしい。
まぁ楽しかったんなら良かったんだろうが、出来ればシンにはもうちょっと大人の対応をして欲しかった。
「セイスドリートもノーチも、ちゃんとクイナを立ててくれてたんだけどなぁ」などと、やっぱりちょっと大人げない彼に小さくため息を吐く。
唯一の救いは、自分の楽しみを半分以上取られた事に、クイナ自身が気が付いていない事だろうか。
さっきからずっと「大きくなるの~♪」と歌う彼女は、今水やりに夢中である。
因みに水やりのお供は、俺がこの前プレゼントしたあのじょうろだ。
子供用を買ったため沢山往復しないといけないが、大きすぎると水を入れた時重くて持てないだろうから、コレばっかりは仕方がない。
ここでもノーチは『無言で水をじょうろに注ぐ職人』に徹していたし、三分の一が終わりクイナが疲れてきたころを見計らい、セイスドリートが「少し面白い魔法をお見せ致しましょう」と言う。
「ですからクイナさん、そこの石の上に少し座っていてください」
「分かったのー!」
素直に頷いたクイナが庭の丁度木陰にある大きな石の上に座ると、彼は畑に片手をかざしながら告げる。
「『バブル』」
「うわぁ……なの」
その詠唱で現れたのは、日の光に照らされて七色に煌めく水玉。
大きさにして、大体クイナのこぶし大のそれが、フヨフヨと宙に浮いている。
俺も昔、セイスドリートに良くシンと2人、よくせがんでは見せてもらっていた『バブル』。
確か粘性のある水を作り出す事で、純粋な水では作り出せない特有の光沢を作り出す魔法……だった筈である。
しかし、見た目重視だから――。
ぽよよよよんっ。
「うわぁ、プルンプルンなの!」
「あれ? 弾けない」
俺の記憶の中の『バブル』は、見た目重視であるが故に触ったらまるで夢だったかのようにパンッと弾けてなくなってしまう代物だった筈なんだけど。
「以前これを見たお子さんに『割れた』と泣かれた事がありましてね。それ以降、仕事の合間に鍛錬し改良を重ね、ついに先日割れない強度を獲得したのですよ」
そう言ってほのほのと微笑むセイスドリートから、俺はゆっくりと目を逸らす。
一体誰だろうなぁー、その泣いたお子さんとやらは。
「アルドッ! スライムみたいにぽよよんなの!」
「そりゃぁ良かったな、クイナスライム好きだもんな」
乾いた笑みでそう言えば、クイナは「うんなの!」と深く頷いた後、尻尾を左右にファッサファッサさせながらあーんと口を大きく開けて――。
「え」
パクン。
まさかの食べた。
「え、ちょっ、大丈夫なのか?!」
「うぇぇ……にがい」
口の中のものをペッペッと吐き出すクイナは耳も尻尾もシュンとなっていて、さぞかし苦かったんだろうと想像できる。
「毒になるようなものは入っていませんので、あの程度なら大丈夫だとは思いますが……なるほど、味についても研究が必要なのですね」
顎に手を当てて「ふむ」と考え込んだ執事に、シンが「いや要らんだろ」と言ってクイナをピッと指さした。
「初見のものを食べてみるとか、コイツくらいだろ」
「むーっ、シン嫌い!」
「何でだよ、ホントの事言っただけだろー?」
「むぅぅーっ!!」
ほら見ろ、シンが余計な事を言うからクイナがまた……と言ってうやりたい所だが、こればっかりはクイナを擁護できないぞ。
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