上 下
34 / 48
第三章:クイナとシンの攻防戦!

第34話 客人たちを、まずは庭にご案内~

しおりを挟む


 街の中心部を抜け、俺はクイナと歩き慣れた道を行く。
 建物のまばらな居住地区へと差し掛かれば、活気のあった空気感も穏やかなものへと変わり、どこか牧歌的な、のどかな雰囲気になった。

「比較的静かで、住みやすい地区だよ。……っと、あぁアレだ」

 同行者たちに、そう説明して指を指す。
 その先にあるのは、赤い屋根の木造りの家。
 ちょうどクイナの背よりも少し高い柵で囲われたその土地には、庭もしっかりと確保されている。
 そここそが、俺とクイナの暮らす家だ。

「ただいまーっ、なの!」

 家に向かって元気よくそう声を上げながら門を開けて敷地に一番乗りしたのは、もちろん小さなキツネっ子だ。
 しかし行くのは玄関ではない。
 庭の方へと直行する。
 
「あーちょっとクイナ! お客さんが居るんだから先に休んで――」
「問題ない。子供に付き合うくらいの体力は残ってる」

 俺の声を遮るように、シンが「良い」と俺を止めた。

「でも長旅だったんじゃないのか?」
「いや、一応前乗りしてこの街に一泊してるし」

 だから大丈夫。
 そんな風に彼が言い、そんな彼の同行者たちも後ろでコクリと頷いた。

 まぁあの様子じゃ、クイナに態度を改めさせても機嫌は悪くなるだろう。
 俺としては嬉しい言葉ではあるのだが。

「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。お前、自分の事は見かけによらず向こう見ずなくせに、そういう所は変わらないよな」

 読めてるのか何なのか、イマイチ良く分からない評価を受けつつ、コッソリと『調停者』を使う。

 ……シンに嘘の兆候は無い。

「二人は、本当に?」

 そう言ってまずは初老の男を見据えれば、彼は穏やかな声で「大丈夫です。お気遣いいただき感謝します」と笑い、その後隣の無表情に目をやれば「……問題、ありません」とこちらは視線を外して言った。
 対照的な反応の二人だが、やはりどちらにも嘘の兆候は出ていない。

「じゃ、お言葉に甘えよう」

 という事で、俺は家に入るよりもまず、客人たちを庭へと通した。


「へぇ、案外広いじゃないか」

 シンが何故か、嬉しそうにそう告げる。
 その理由が分からなくて思わず小首を傾げれば、彼はフッと笑って言った。

「王城から出て一体どんな生活を送っているのかと思えば、平民の身分で冒険者としてそれなりに生計を立ててるというじゃないか。その上自分の持ち家だぞ? 元々は王城なんて公共の場が自分の家だったやつが、だ」

 なるほど。
 シンなりに、一応感慨深さのようなものがあるらしい。

 が、今はそれよりも、よほど気になる事がある。

「それにしてもシンお前、次期侯爵のくせに他国《こんなところ》にまで出てきていいのか? っていうか仕事は? そもそも来るんなら、先に言っといてくれれば良かっただろ」

 矢継ぎ早とは、正にこういう事を言うのかもしれない。
 街の往来では聞けない事を、敷地に入ったのをいいことにシンに向かって纏めて尋ねる。

 本当は家の中で聞いた方がいいのだろうが、一応先日のオーク討伐の報酬で買ったばかりの盗聴防止の魔法具を作動させてから聞いた。
 余程の猛者が俺達を見張ってでもいない限り、外に話が漏れる事はない。

「心配すんな。仕事は擦り付けてきたが出国の許可はちゃんと取ってるし、執事も護衛もほらこの通り、ちゃんと連れて来てるだろ?」

 そう言って、彼は後ろの二人を指した。
 

 いくら平民服を着ていても、すぐに溶け込んだ俺とは違い、シンは全く平民らしくない。
 良いところが、大商会のボンボンだ。
 しかしそれは、彼の後ろに立つこの二人にも、似たような事が言える。
 
 初老の方は身についている執事としての所作が全く隠せていないし、もう一人は体格こそ鍛え抜かれた冒険者のソレだが、少ししゃんと背筋が伸びすぎている。
 明らかに集団訓練を常日頃からしている者のソレである。


 その二人の内、初老の方は俺も良く知っていた。
 物心ついた頃にはよくシンが俺の側に居たが、そんな俺達を後ろから常に見守っていたのが彼である。
 擦り傷を作れば手当てをしてもらい、悪戯をすれば穏やかに窘められ、手が届かない高さの本を代わりに取ってくれていた。
 そういう男が彼である。

「執事服でないと何だか妙な感じだな、セイス」
「ご壮健そうで何よりでございます、アルド様」
「やめてくれ。敬語については癖もあるかもしれないが、俺はもうそんな風に呼ばれるような身分じゃないよ」

 ――デスパード侯爵家、次期当主付き筆頭執事・セイスドリート。
 いつもは綺麗に後ろに撫でつけオールバックにしている彼は、今日はオフモード仕様なのか。
 前髪を下ろしムースの類は付けていない。
 しかしそれでも綺麗なアッシュグレーの髪と垂れた黒目は、いつもと変わらずそこにある。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪魔だと呼ばれる強面騎士団長様に勢いで結婚を申し込んでしまった私の結婚生活

束原ミヤコ
恋愛
ラーチェル・クリスタニアは、男運がない。 初恋の幼馴染みは、もう一人の幼馴染みと結婚をしてしまい、傷心のまま婚約をした相手は、結婚間近に浮気が発覚して破談になってしまった。 ある日の舞踏会で、ラーチェルは幼馴染みのナターシャに小馬鹿にされて、酒を飲み、ふらついてぶつかった相手に、勢いで結婚を申し込んだ。 それは悪魔の騎士団長と呼ばれる、オルフェレウス・レノクスだった。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

婚約破棄計画書を見つけた悪役令嬢は

編端みどり
恋愛
婚約者の字で書かれた婚約破棄計画書を見て、王妃に馬鹿にされて、自分の置かれた状況がいかに異常だったかようやく気がついた侯爵令嬢のミランダ。 婚約破棄しても自分を支えてくれると壮大な勘違いをする王太子も、結婚前から側妃を勧める王妃も、知らん顔の王もいらんとミランダを蔑ろにした侯爵家の人々は怒った。領民も使用人も怒った。そりゃあもう、とてつもなく怒った。 計画通り婚約破棄を言い渡したら、なぜか侯爵家の人々が消えた。計画とは少し違うが、狭いが豊かな領地を自分のものにできたし美しい婚約者も手に入れたし計画通りだと笑う王太子の元に、次々と計画外の出来事が襲いかかる。 ※説明を加えるため、長くなる可能性があり長編にしました。

素敵なものは全て妹が奪っていった。婚約者にも見捨てられた姉は、「ふざけないで!」と叫び、家族を捨てた。

あお
恋愛
「お姉様、また新しいアクセサリーを貰ったのね。ずるいわ。私にちょうだい」 「ダメよ。これは婚約者のロブに貰ったものなの。あげられないわ」 「なんて意地悪なの! ロブだって私に使って貰った方が喜ぶわよ。早くちょうだい」  ダメだと重ねていったが、アクセサリーは妹のエミリーにひったくられてしまった。 「ふふ。綺麗。ねぇ、素敵でしょう」  そしてエミリーは戦利品を首にかけ、じっとりとした目でこちらを見てくる。  婚約者からもらったものだ。できることなら取り返したいが、エミリーが金切り声をあげて両親に訴えれば両親はエミリーの味方をするだろう。 「ロザリー、あなたは姉なのだから、妹に譲ってあげなさい、と」  それでも取り返すべきかと躊躇したが、お披露目して満足したのかエミリーはパタパタと足音をたてて去って行った。  プレゼントされたばかりのアクセサリーを次のデートにつけていかなければ、またロブの機嫌が悪くなるだろう。  困ったものだ。  どうせエミリーにとられてしまうのだから、プレゼントなどくれなければいいのに。  幼なじみのロブは、エミリーが姉のものならなんでも欲しがることを知っている。それでも折々に洒落た小物をプレゼントしてくれた。「僕がプレゼントをしたいだけだから」と。  エミリーにとられる前に、二人でプレゼントを眺め、そっと笑い合う。婚約したばかりの頃は、そんな穏やかな空気が二人の間に流れていた。  だが近頃は、妹にやられっぱなしのロザリーをふがいなく思っているのか、贈られたプレゼントをロザリーがデートにつけていかないと、小さなため息を吐くようになっていた。 「ロザリー、君の事情はわかるけど、もう成人するんだ。いい加減、自立したらどうだ。結婚してからも同じようにエミリーに与え続けるつもりかい」 婚約者にも責められ、次第にロザリーは追い詰められていく。 そんなロザリーの生活は、呆気なく崩れ去る。 エミリーの婚約者の家が没落した。それに伴い婚約はなくなり、ロザリーの婚約者はエミリーのものになった。 「ふざけないで!」 全てを妹に奪われたロザリーは、今度は全てを捨てる事にした。

あなたがわたしを本気で愛せない理由は知っていましたが、まさかここまでとは思っていませんでした。

ふまさ
恋愛
「……き、きみのこと、嫌いになったわけじゃないんだ」  オーブリーが申し訳なさそうに切り出すと、待ってましたと言わんばかりに、マルヴィナが言葉を繋ぎはじめた。 「オーブリー様は、決してミラベル様を嫌っているわけではありません。それだけは、誤解なきよう」  ミラベルが、当然のように頭に大量の疑問符を浮かべる。けれど、ミラベルが待ったをかける暇を与えず、オーブリーが勢いのまま、続ける。 「そう、そうなんだ。だから、きみとの婚約を解消する気はないし、結婚する意思は変わらない。ただ、その……」 「……婚約を解消? なにを言っているの?」 「いや、だから。婚約を解消する気はなくて……っ」  オーブリーは一呼吸置いてから、意を決したように、マルヴィナの肩を抱き寄せた。 「子爵令嬢のマルヴィナ嬢を、あ、愛人としてぼくの傍に置くことを許してほしい」  ミラベルが愕然としたように、目を見開く。なんの冗談。口にしたいのに、声が出なかった。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

処理中です...