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第三章:クイナとシンの攻防戦!
第34話 客人たちを、まずは庭にご案内~
しおりを挟む街の中心部を抜け、俺はクイナと歩き慣れた道を行く。
建物のまばらな居住地区へと差し掛かれば、活気のあった空気感も穏やかなものへと変わり、どこか牧歌的な、のどかな雰囲気になった。
「比較的静かで、住みやすい地区だよ。……っと、あぁアレだ」
同行者たちに、そう説明して指を指す。
その先にあるのは、赤い屋根の木造りの家。
ちょうどクイナの背よりも少し高い柵で囲われたその土地には、庭もしっかりと確保されている。
そここそが、俺とクイナの暮らす家だ。
「ただいまーっ、なの!」
家に向かって元気よくそう声を上げながら門を開けて敷地に一番乗りしたのは、もちろん小さなキツネっ子だ。
しかし行くのは玄関ではない。
庭の方へと直行する。
「あーちょっとクイナ! お客さんが居るんだから先に休んで――」
「問題ない。子供に付き合うくらいの体力は残ってる」
俺の声を遮るように、シンが「良い」と俺を止めた。
「でも長旅だったんじゃないのか?」
「いや、一応前乗りしてこの街に一泊してるし」
だから大丈夫。
そんな風に彼が言い、そんな彼の同行者たちも後ろでコクリと頷いた。
まぁあの様子じゃ、クイナに態度を改めさせても機嫌は悪くなるだろう。
俺としては嬉しい言葉ではあるのだが。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫だって。お前、自分の事は見かけによらず向こう見ずなくせに、そういう所は変わらないよな」
読めてるのか何なのか、イマイチ良く分からない評価を受けつつ、コッソリと『調停者』を使う。
……シンに嘘の兆候は無い。
「二人は、本当に?」
そう言ってまずは初老の男を見据えれば、彼は穏やかな声で「大丈夫です。お気遣いいただき感謝します」と笑い、その後隣の無表情に目をやれば「……問題、ありません」とこちらは視線を外して言った。
対照的な反応の二人だが、やはりどちらにも嘘の兆候は出ていない。
「じゃ、お言葉に甘えよう」
という事で、俺は家に入るよりもまず、客人たちを庭へと通した。
「へぇ、案外広いじゃないか」
シンが何故か、嬉しそうにそう告げる。
その理由が分からなくて思わず小首を傾げれば、彼はフッと笑って言った。
「王城から出て一体どんな生活を送っているのかと思えば、平民の身分で冒険者としてそれなりに生計を立ててるというじゃないか。その上自分の持ち家だぞ? 元々は王城なんて公共の場が自分の家だったやつが、だ」
なるほど。
シンなりに、一応感慨深さのようなものがあるらしい。
が、今はそれよりも、よほど気になる事がある。
「それにしてもシンお前、次期侯爵のくせに他国《こんなところ》にまで出てきていいのか? っていうか仕事は? そもそも来るんなら、先に言っといてくれれば良かっただろ」
矢継ぎ早とは、正にこういう事を言うのかもしれない。
街の往来では聞けない事を、敷地に入ったのをいいことにシンに向かって纏めて尋ねる。
本当は家の中で聞いた方がいいのだろうが、一応先日のオーク討伐の報酬で買ったばかりの盗聴防止の魔法具を作動させてから聞いた。
余程の猛者が俺達を見張ってでもいない限り、外に話が漏れる事はない。
「心配すんな。仕事は擦り付けてきたが出国の許可はちゃんと取ってるし、執事も護衛もほらこの通り、ちゃんと連れて来てるだろ?」
そう言って、彼は後ろの二人を指した。
いくら平民服を着ていても、すぐに溶け込んだ俺とは違い、シンは全く平民らしくない。
良いところが、大商会のボンボンだ。
しかしそれは、彼の後ろに立つこの二人にも、似たような事が言える。
初老の方は身についている執事としての所作が全く隠せていないし、もう一人は体格こそ鍛え抜かれた冒険者のソレだが、少ししゃんと背筋が伸びすぎている。
明らかに集団訓練を常日頃からしている者のソレである。
その二人の内、初老の方は俺も良く知っていた。
物心ついた頃にはよくシンが俺の側に居たが、そんな俺達を後ろから常に見守っていたのが彼である。
擦り傷を作れば手当てをしてもらい、悪戯をすれば穏やかに窘められ、手が届かない高さの本を代わりに取ってくれていた。
そういう男が彼である。
「執事服でないと何だか妙な感じだな、セイス」
「ご壮健そうで何よりでございます、アルド様」
「やめてくれ。敬語については癖もあるかもしれないが、俺はもうそんな風に呼ばれるような身分じゃないよ」
――デスパード侯爵家、次期当主付き筆頭執事・セイスドリート。
いつもは綺麗に後ろに撫でつけオールバックにしている彼は、今日はオフモード仕様なのか。
前髪を下ろしムースの類は付けていない。
しかしそれでも綺麗なアッシュグレーの髪と垂れた黒目は、いつもと変わらずそこにある。
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