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第三章:クイナとシンの攻防戦!

第32話 欲張りクイナはしゅんとなる

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 確かに彼には、これまでお世話になりながら恩恵の話はしていなかった。
 まぁそれは、あくまでも「そういう機会が無かったから」というだけの話なのだが、少なくとも『調停者』持ちの件は言っても良かったのだから、少し良心が痛んでしまう。

「いえ、アルドさんにはもっと隠しているものがありそうだ、と思いまして」

 流石は商人の勘というべきか。
 その声に思わずギクリとし、「はぁ」と深くため息をつく。
 
 ダメだ、コレは誤魔化せない。

「……実は『魔剣士』も持っています」

 こちらも別に隠してはいない。
 二つ持ちという事で少し目立つ可能性もあるが、このくらいならまだ持っている人もいる。

 それでも、さも「勘弁した」という程で告げれば、彼の目が少し見開かれる。

「おや、珍しい。2つ持ちなのですね」
「えぇですから、あまり大々的には……」
「分かりました」

 人の良さげな顔で頷く彼の配慮に礼を言いつつ、内心ではホッと息をつく。

 まだ持っているという事は、流石のダンノ相手でも言えるような事じゃない。
 俺はこの街で、普通の平民としての生活が出来れば十分なのだ。
 
 過去の不幸の末に発現してしまった恩恵なんて、知られないに越した事はない。


 そんな風に思っていると、ダンノの娘・メルティーとあちこち見て回っていたクイナがテテテッとやってくる。

「アルドッ! これ、全部植えるの?」

 ガーデニングフロアをバックにして両手をババーンと広げながらそう聞いてくるクイナに俺は、思わず苦笑させられる。

「お前なぁ、流石にこれ全部植えるには場所足りないだろ? それに初心者なんだから、とりあえず最初はちょっとだけ買って、上手く行ったら他のも育てるのが安全だ」
「えぇー……」

 俺の安パイな提案に、耳も尻尾もシューンと一気に萎れてしまった。

 ……いや、何もそこまで落胆しなくても。
 そんな風に思うものの、クイナの「全部クイナのだと思ったのに……」という言葉にアハハハッという乾いた笑みしか出てこない。

 なるほど、ここに来た瞬間にフロア中を駆けずり回る勢いで隅から隅まで見て回っていたのは、全部自分のだと思ったからか。
 そう思えばあのはしゃぎ様も納得できるか、だからといって無い土地を増やせるわけも無いので、流石に今回は諦めてもらうしかないだろう。

「今日は数種類。キャロさんにどれが良さげか聞いたから、それを買って帰ろうな」
「うーむ、仕方がないの」

 しぶしぶといった感じで納得したクイナに、俺はちょっと苦笑いしつつダンノへと向き直る。

「あの、ミニトマトときゅうりとじゃがいもの苗ってありますか?」
「あぁそれならこっちですね」
「苗の良し悪しとか、イマイチ良く分からないんですけど……」
「ふふふっ、仕方がありませんね。見繕ってあげますよ」

 そんな会話を経て幾つかの苗を見繕ってもらい、俺が会計を済ませていると――。

「アルドッ! 早くお家帰って植えるの!」
「あっちょっクイナ! まだ支払い済んでないから!」

 そう言って呼び止めようとするものの、クイナは最早こちらなんて見えてない。

「しょうがないなぁ……クイナ! ちゃんと出口の所で待ってろ?!」

 苦肉の策でそう声を張り上げといたが、果たして聞こえたのかどうか。
 若干怪しいところである。



 手早く支払いを済ませて、バッグに全てを入れてすぐに後を追いかけた。

 外に出たが、クイナの姿は残念ながらそこに無い。
 やっぱり聞こえていなかったのか、はたまた聞いていなかったのか。
 もしかして誰かに誘拐されて――。

 とここまで考えた所でホッと胸を撫でおろす。


 少し向こうで誰かと一生懸命喋るキツネ耳娘の姿があった。
 歩いていくと、少しずつクイナと相手の会話が耳に入ってくる。

「お兄さんは、この国の外から来た人なの?」
「あぁそうなんだ、ちょっと人を探しがてら観光に」
「観光! この街とってもいい街なの! 串焼きもコロコロステーキもプリンも全部美味しいし、お店もいっぱいで森ではスライム食べ放題なのっ!」
「へぇ」
「オークさんパーティーもたまにはあるけど、顔怖くても全然怖くないの! アルドが全部スパパンッってやってくれるの! それでね、とっても美味しいの!」

 身振り手振りまで使い、とっても見事なプレゼンだ。
 が、ちょっと待て。
 さっきからうちの子、ほぼ食べるモノの話しかしてない。


 流石にこれ以上は子供の話に付き合わせるのも申し訳ないなと思ったので、小走りでそちらに近付いていく。

「すみません、うちの子が――」

 と、次の瞬間。
 俺は思わず固まった。

 俺の声に向いた顔。
 その正体は――。

「え」
「あ、アルドー、おっそいのぉー!!」

 テテテーッと走ってきて足に引っ付くクイナの重さを感じるが、正直言ってそんな場合じゃない。

「シ、シン……?!」
「あ。よ、アルド」

 思わず大声でそう尋ねると、平民姿の幼馴染が二ッと笑い軽い声で「久しぶりだな」と言ってくる。

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