9 / 48
第一章:マイペースに生きてると、たまにはオークに囲まれる。
第9話 出来れば今日のお肉だけは
しおりを挟むくそぅ、レングラムめ。
何が「これくらい出来なくてどうしますか!」だ。
いやまぁ確かに探索魔法は、主に王城内で会いたくない相手と鉢合わせしない為には重宝したけど、アイツの常識のありかはどこにある。
お陰で俺は、絶賛非常識な人間扱いされ中だ。
と、今頃おそらく母国の訓練場で剣を振っているんだろう師匠に、思わず恨み節を向けずにはいられない。
が、その一方で大いに反省もする。
この非常識は、――先程ミランも言ってくれたが――クイナの安全にも直結する。
だって俺がやっかみを買えば、まず最初に武力行使で狙われるのはまだ体も小さく俺より弱いクイナだろうから。
一緒に行動するというのは、つまるところそういう事だ。
ましてや俺はクイナの保護者なんだから、特にその辺は気を付けないといけないだろう。
そう思ってちょっと肩を落としていると、ミランはそれを見かねてか。
それとも最初から全てはここへと話を持って行く為の布石だったのか。
コホンと一つ咳ばらいをしてからこう、言葉を続けた。
「アルドさん、知っていますか? 冒険者ランクはBまでは、受けた依頼の種類や達成数に応じて段階的に上がっていきます。ですから皆さん、ランクを上げるために地道に依頼を積み重ねるんです。――が、例外というものもあるのですよ」
なるほど、と俺は思った。
つまりこれは「俺の常識知らずを他人にとやかく思われない・言わせない為の策として、その例外になってみないか」という打診らしい。
相応の試験は必要になってくるんだろうが、とりあえず『それに挑戦する意義は認められた』という事なんだろう。
誰かに認めてもらえる事、それ自体は俺も嬉しい。
少なくとも俺が王太子の時にはあまり実感する事の出来なかった喜びだ。
が。
「丁重にお断りしておきます」
そう答えると、驚いた顔をされてしまった。
「え、どうしてです? 高ランクになった方が仕事の幅も広がりますし、報酬だって増えますよ?」
「えぇまぁそれはその通りなんでしょうが……」
そう言いながら、隣のクイナに目をやった。
すると、ちょうどクイナと目がかち合う。
その目が俺に「ごはん、まだ?」と言っていた。
そうだった。
コイツを待たせたままだった、と思い出して苦笑する。
「金や地位や名声よりも、『クイナと一緒』が大切なんです」
そう言いながら金色の頭を撫でてやると、おそらく難しくて一連の話を理解できていないのだろう。
「なんか良く分からないけどナデナデ気持ちいい」みたいな顔でクイナが笑った。
それを見て、ミランの顔もまるで「合点がいった」とでも言いたげに綻ぶ。
「危ない案件はクイナちゃんをどこかに預けてアルドさん一人で、という手もありますが……しかしそうですね。クイナちゃんと一緒に依頼を熟したいなら、同じランクでいる方が面倒事も少ないかもしれません」
例えば「高ランカーのくせに低ランカーの仕事を奪ってる」とか、「高ランカーのくせに危ない仕事を避けるチキン」とか。
そんな風に具体例を幾つか出され、そこまで深く考えてはいなかった俺は「確かにそう思われる可能性も大いにあるな」と頷いた。
特に特例でランクを上げるとなれば、それだけでもう目立つだろう。
悪目立ちする事、間違いない。
その上ミランの口からこういった話がスラスラと出てくるのだ。
程度はともあれ、実際にあったのだろうと思えてならない。
改めて「すみません」と辞退すれば、彼女は一言「分かりました」と笑って言った。
多分彼女はこれ以降、この手の話は振ってこないだろう。
こういうスマートな所も俺は、とっても気に入っている。
「じゃぁリトルボアと同様に、オークもこちらで素材の剥ぎ取りと買取をしますか?」
そう尋ねられ、条件付きで頷いた。
「オークの肉は全てこちらで持って帰ります。剥ぎ取りと、それ以外の素材の買取をお願いします」
「分かりました。量が量ですので、肉の引き取りは明日以降になりそうですが……」
「あっ、と……出来ればなんですが、今日の晩御飯にしたいんです」
そう言いながら横を見ると、クイナがキラッキラの目でミランを見ている。
すると元々多少の融通は利くのだろう。
「じゃぁお2人分の今日のお肉はすぐに捌いてもらいましょう」
「すみません、助かります」
こうして俺達は、遂にご飯へとありつく算段とつける事に成功したのだった。
10
お気に入りに追加
482
あなたにおすすめの小説
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~
柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。
想像と、違ったんだけど?神様!
寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。
神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗
もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。
とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗
いくぞ、「【【オー❗】】」
誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。
「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。
コメントをくれた方にはお返事します。
こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。
2日に1回更新しています。(予定によって変更あり)
小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。
少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
妹と歩く、異世界探訪記
東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。
そんな兄妹を、数々の難題が襲う。
旅の中で増えていく仲間達。
戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。
天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。
「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」
妹が大好きで、超過保護な兄冬也。
「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」
どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく!
兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。
聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!
猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?
仲良しのもふもふに理不尽な婚約破棄を愚痴ったら、国が崩壊することになりました
柚木ゆず
ファンタジー
あのね。殿下は聖女様に心変わりをされて、理不尽に婚約破棄をされちゃったの――。
はぁ。関係者全員に、罰が当たらないかなぁ――。
6年前無理やり私を婚約者にしたくせに、結婚式まで3か月となった今日一方的に婚約破棄を宣告されたこと。おまけにお父様達は殿下や陛下と取り引きをしていて、私を悪者に仕立て上げて追放する準備を始めたこと。
それらを私は、唯一の親友に――7年前に偶然助けたことで仲良くなった、ラグドールのノアに愚痴った。
そうしたら…………え!?
ノアはラグドールじゃなくて、神様が住む世界に居た神獣!?
これから神の力を使って、関係者全員に罰を与えに行く!?
ノアからビックリする秘密を聞かされて、そうして私の長い長い1日が始まったのでした――。
種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)
十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。
そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。
だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。
世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。
お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!?
これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。
この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる