上 下
18 / 20
第二章 第一節:王さまに会いに行ってみる

第9話 どうしてそんな事になった ~魔王さま視点~(1)

しおりを挟む


 夜。執務室の仕事が一段落ついたところで、俺は「ふぅ」と息をつきながらいつもの癖で眉間を揉み解した。
 ちょうど見計らったかのように、横から宰相・ルガルゼがコーヒーを出してくる。無言で受け取り、カップに口を付け――。

「そういえば陛下。先程書類を各部署に届けるついでに城内を一回りしてきたのですが、『陛下がコブ付きになった』という話ですっかり持ち切りになっていました」
「ごふっ」

 突飛由もない事を突然言われて、思わず飲んでいたものを噴き出しそうになった。
 ギリギリ堪えられたので書類は汚さずに済んだが、代わりに液体がガッツリと気管に入り、ゴホッゴホッと強く咳きこむ。

「な、何だその『コブ付き』っていうのは!」
「陛下に娘ができた事を意味する言葉だと推測します」
「そうじゃない! 何で俺に娘が云々という話になったんだ!!」
「先程ご自身が皆の前で堂々と宣言されたからでしょう。『俺の娘には指一本触れるな』と」
「言ってない!」

 いつもの軽口だと分かっていながらも、流石に叫ばずにはいられなかった。

 もしその『先程』が夕方の一件を指しているのなら、ルガルゼだってあの場に一緒にいた筈だ。ずっと俺の後ろで今みたいに楽しげに猫目細めて黙って立っているだけだったが、あの一部始終を聞いて本当にそう思ったのだとしたら、「休みをやるからその耳ちょっと取り替えてこい」と声を大にして言ってやりたい。

 咳きこんでいるせいでそれらを言葉にはできないが、代わりにルガルゼをギロリと睨めば、それだけで俺の意思は伝わるはずだ。
 実際に伝わったと思う。ただこいつにとっては俺の睨みなど、すっかり慣れたものだろう。楽しげに喉を鳴らしながらクツクツと笑っただけで、その後すぐにスッといつものすまし顔になる。

「陛下が今気にすべきは『実際にどう言ったか』ではなく、『どのように伝わってしまったのか』では?」

 正論すぎてぐうの音も出ない。
 代わりに腹の中に溜まった気持ちを、「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」と一気に吐き出す。

 ルガルゼはきっと、「建設的な話をしなければ話は進まない」と言いたいのだ。分かっている。分かっているが。

「……何故そんなふうに伝わった」

 伝わっている内容が色々と残念過ぎて、俺は思わず執務机に両肘をついて、頭を抱え、項垂れる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

女公爵となってなんとか上手くやれるようになった矢先に弟が出来たんですが…可愛いからオールオッケー!!!

下菊みこと
ファンタジー
かなり年の差のある血の繋がった美少年な弟に、無事ブラコンになった姉のお話。 ブラコンですが恋愛感情には発展しません。姉の恋人は別にいます。 弟の方も無事シスコンになります。 ご都合主義のハッピーエンド、短いお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...