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第二章 第一節:王さまに会いに行ってみる
第7話 怖い顔のやさしい王さま(2)
しおりを挟む一方手をグッと押し戻された騎士の人には、青いオーラが見えていた。まぁ大きな体をガタガタと震わせて顔まで青くさせているから、オーラを見るまでもないんだけど……でも、あれ? 何でだろう。
わたしは思わず首を傾げる。
こっちを見てる周りのみんなにも、何でか青いオーラが見える。
――まるで、自分もどうにかされてしまうって思ってるみたい。
王さまが怒っているのは騎士の人だけなのに、こんな温かな気持ちの色をしてる人が、他の人に八つ当たりみたいなことをするはずないのに。
変なの……と思ったけど、そういえば前にも今みたいに、不思議に思ったことがあったっけ。
王妃さまは本当は怒っていたのに、側妃さまたちは嘘の笑顔に勘違いした結果、もっと王妃さまを怒らせてしまったり。お父さまは別に怒ってないのに、ちょっと注意しただけでみんな「怒らせた」と思ってすごく怖がってたり。
たしかその時も、とても不思議に思ったんだ。
「この娘に何の用だ」
王さまの抑揚の少ない声に、みんなの間に緊張感が走った。
「いえ、その……無礼にも、こいつが獅子族の神聖なる尻尾を引っ張ってきて!」
「だから俺の客に、何の断りもなく手を出していいと?」
ピッとわたしを真っ直ぐ指さしながら声を上げた騎士の人だったけど、王さまに睨まれて「ひっ」と悲鳴を上げる。
それでも「し、しかし」と声を上げたのは、もしかしたら少しでも自分の落ち度を減らしたかったからかもしれない。
「陛下の元へと来る客人は、絶世の美女だったはずでは……?」
その言葉に、今度は王さまの眉の端が片方だけビクッと上がる。
顔はまだ怖いけど、気持ちの色は激変だ。怒りの赤がシューッと薄れ、代わりに悲しみの水色が少し顔を出す。
きっと誰よりもそんな客人を待ち望んでいたのは、王さまだ。王さま、ちょっと可哀想……。
「客人はコレで間違いない」
「ではこの娘が陛下の嫁に――」
「そんな訳あるか。馬鹿か貴様は」
もう一段階下がった声は、最早地を這うような低さになっている。
困惑交じりだった騎士の人の、尻尾の毛と髪の毛がブワッと逆立った。悪気があって言った訳じゃなさそう。なのに怖い顔をされて、騎士の人もちょっと可哀想……。
「おいお前」
「リコリスです、王さま」
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