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第一章:リコリス、王さまをモッテモテにするって決めました!

第1話 ふつつか者のわたしと、魔族の王さま

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 謁見の間の、ど真ん中。入り口から王座までまっすぐに伸びた赤いじゅうたんにチョンと正座して、わたしは三つ指をついていた。

「魔王さま。今日からお世話になります、リコリスともうします。ふつつか者ではありますが――」

 言い切る前に、目の前から「はぁぁぁぁぁぁぁぁあー……」という、それはそれはものすごく深いため息が聞こえてきた。

 何か作法を間違えただろうか。そんなふうに思うけど、すぐに「そんなはずない!」と思い直す。

 これは、今はもうお空のお星さまになってしまったお母さまに教えてもらった、とっても大事な作法なのだ。

『私もこの国に嫁いできた時に、貴女のお父様にやったのよ。もちろんこれでイチコロだったわ!』

 いつもベッドの上だった大好きなお母さまが、特に楽しそうな顔でグッと親指を上に立てて言っていた話、教えてもらった作法である。忘れるはずなんてない。
 でもじゃあ何で、彼はこんなにも深いため息を……?


 答えがどうしても気になって、「声を掛けられるまで顔は上げない」というお母さまの教えを破ることにした。

 恐る恐る顔を上げてみる。
 王座には、何故かうなだれている人がいた。自らの膝に肘をつき、その手で額を支えるような体勢で、前かがみになっている。

 顔は伏せられているけど、全部が見えない訳じゃない。
 カラスの羽のように黒い髪と、陶器のように白い肌。整った顔立ちの細身の男性。頭にある朱色の角だけが、彼が人間ではないことを視覚的に伝えてきている。

 ……国では、魔族はみんな『コガネムシ色の肌をしていて、血は緑だ』って言われていたけど、少なくとも肌は普通の色なんだ。

 そんなことを考えていると、目の前からポツリと声がした。

「せっかく俺にも“嫁”ができると思ったのに」

 言いながら顔を上げた彼の灼眼に、やっとわたしの姿が映る。
 正座のまま、彼を見上げるわたし。肩より少し長い髪に、大きな瞳。ぷっくりとした頬と、小さな体。

「来たのがまさか、こんなだなんて」

 これを嫁だなどと言ったら、逆に馬鹿にされるではないか。
 先日やっと七つになったばかりのわたしに、王さまはガックリと大きく肩を落とした。
 そんな彼の言葉に、様子に、わたしはコテンと首を傾げた。

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