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第三章:オルトガン三兄妹、報告ティータイムに興じる。
第4話 満足感に包まれながら飲む紅茶は一段と美味しい(2) ★
しおりを挟む「ほう……!」
対面してから初めて少しばかり驚いた顔を見せた悪魔の眼下で、ルタは拳を握ると自身の身体の上へと振り上げた。ガラスが砕けるような音とともにキラキラとした透明な破片が周囲に降り注いでいく。
「これは驚いたの。スキルとやらでも我輩の魔力に対抗出来るとは」
「まだだ!」
ルタが振り上げていた拳を広げた。その手のひらから暗い光が悪魔へと撃ち出されていく。高速で迫る光に、しかし悪魔は首を少し傾けただけで回避した。
「確か何日か前にお主が大剣持ちの脳筋と戦っていたときに、空中に文字が浮かんでいたのう。『デバフ』とか書かれていたか」
ルタがニーサを三人組から助けたときのことだ。ニーサが見ていたということは、つまりこの悪魔にも知られていたことにつながる。
「そのデバフで我輩の魔力を弱体化させた。じゃが、我輩自身はそう簡単に受けんわ。正面から来ればなおさらのう」
悪魔は笑みを絶やさない。
「仮にお主がいまの光を操れるとしても無駄じゃぞ。あの程度の速さなら容易に回避可能じゃし、万が一にも受けてデバフされても、その分を強化すればいいのじゃからな」
魔力や魔法では身体や物質を強化できる。悪魔ほどの実力ならば、下げられた能力を帳消しにできるだけでなく、さらなる強化も可能だろう。
「かっかっかっ」
お主のやることなどに意味はない……そう言うように笑い声を上げる悪魔に、しかしルタは静かな声を返した。
「……俺のスキルは『未熟』だ」
「ん? 何か言ったか?」
「……デバフはただのレベル1の技に過ぎないってことだ……『未熟』の真骨頂は……」
ルタが地面を蹴ってその場を離れる。その瞬間、はるか上空から滝のような大量の水が降り注いできた。
「……⁉ これは……っ⁉」
瞬時に悪魔も空中を移動してその場を離れる。衝撃音とともに地面にちょっとした池のような、大きな水溜まりが出現した。
「何じゃ⁉ お主のスキルは水も作れたのか⁉」
さっきよりも明確な驚き。それも無理もないだろう。ルタのスキルはあくまでステータス変化であり、物質生成ではないはずなのだから。
「作れんのは水だけじゃねえぜ」
ルタが言った瞬間、水溜まりから爆ぜるようなガスの塊が立ち上った。
「水蒸気爆発か⁉ じゃが火はないはず⁉」
「……もっと戻れ……水蒸気のさらに前に……」
火山の爆発のように激しかった水蒸気が、一瞬にして視界から消え失せる。いや消滅したのではない、彼が言ったように戻ったのだ。水蒸気を形成するさらに前の状態に。
ルタがポケットからマッチを取り出した。魔物の肉を焼くときに用いているものだ。その一本を取り出して火を灯す。
「……⁉ お主、まさか……⁉」
「……てめえを倒すのは、てめえの周りのものだ。てめえのスピードじゃ逃げられやしねえ」
「やめ……⁉」
ルタがマッチを悪魔が浮かぶ空中に放り投げる。その瞬間、逃げようとした悪魔をとてつもない爆発と火炎が飲み込んだ。
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●本作の続編はこちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜
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