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第一章:初めての社交で暗躍する。
第6話 転がされる者と、転がす者
しおりを挟むセシリアと別れた後、そんな2人のやり取りをすぐ隣で見ていた既知の友から、伯爵はこんな風に指摘された。か
「レントール、お前面白いくらい見事にセシリア嬢の掌の上で転がされていたぞ……」
それはもうまるで絵に書いたかの様な転がされっぷりだった。
そう呆れ混じりに告げられて、伯爵は思わずキョトンとした。
結局セシリアは「『燃えない紙』の購入」という願いを叶える為の第一歩を順調に踏み出した事になる。
普通ならば、年下の女性にこんなにもものの見事に転がされれば腹も立ちそうなものだが。
「不思議だなぁ」
彼はその現実を、決して不快には思っていなかった。
それは転がされっぷりがあまりに見事だったからか、それとも彼女の提案がこちらにもきちんと実り有るものだったからか。
はたまた、彼女という人の人徳が故なのか。
まぁ、どちらにしろ。
「流石はオルトガン、そして伯爵夫人の血を引くだけはある」
周りを不快にさせずに自分も利を得る。
そんな彼女のやり方に、伯爵は既視感を抱かずにはいられなかった。
伯爵夫人・クレアリンゼ。
セシリアの裏には彼女の教育の後が見て取れる。
「よくぞあの歳でここまで出来る様に育てたものだ」
それはまさしく、クレアリンゼへ向けた称賛の言葉だった。
***
片や今回の社交での目標『顔を売る事』と『自身の欲しかった物を貰う算段を付ける事』の2つを見事に達成したセシリアはというと。
「……ふぅ」
ゼルゼンから受け取った飲み物を片手に一人、一息ついていた。
そして視線を会場内へと巡らせる。
(さて、次はどこにするか)
次の社交場での目標を胸に、セシリアはまた脳内データベースをフル稼働させる。
そして、見つけた。
次なる目的地は『婦人達の集まるコミュニティー』、女の園である。
当主達の集まる場所では、認めてもらう為に『物理的な利』提示した。
しかし今度はおそらく、それでは認めてもらえないだろう。
女性社会で認めてもらう為には、また別のベクトルの『利』が必要になる。
そしてその為には、一層の心理戦と『読み』の力が必要になってくるだろう。
今回以上に気の抜けないやり取りが発生する事は目に見えている。
グラスをゼルゼンに預けると、セシリアはもう一度社交の仮面をしっかりと被り直した。
そして「よし」と自身に小さな喝を入れてから、戦場へと歩みを進めたのだった。
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