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第一章:初めての社交で暗躍する。

第4話 オルトガンの娘(2)

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 彼は、社交の邪魔だろうセシリアを否応なく追い払うのではなく、まずは説得してくれている。
 それは間違いなく彼の優しさだ。
 
 しかしそれは殊社交において、必ずしも長所ではない。
 付けいる隙にだってなる。

「私は伯爵方の領地の事についてお話をお聞きしたかったのですが……やはりそういう理由では皆様のお邪魔になってしまうでしょうか?」

 あくまで善意で子供扱いをしてくれる彼に、セシリアは上目使いでそう尋ねた。

 つまり「ならばそれを武器にすればいい」という事である。


 そんなセシリアの考えに気が付いたのは、彼女の従者・ゼルゼンただ一人だった。
 
 初対面の大人を騙せるくらいには、セシリアの社交の仮面は分厚かったのだ。
 だからこの後、そんなセシリアの手のひらの上でもの見事に転がされたところである程度は仕方がなかっただろう。


 伯爵は、数秒の間考えるような素振りを見せた。
 そして「まぁ良いか」と呟く。

「それで、聞きたい事っていうのは何なんだい?」

 そんな彼の物言いには「どうせすぐに終わるだろう」という目算が含まれていた。


 さらっと答えて彼女の「大人の仲間入りをしたい」欲を満たせばすぐに満足して去っていくだろう。

 そう思っているのをその表情からしっかりと読み取りながら、セシリアは予定通りの言動に出た。

「モンターギュ伯爵領では紙の生産技術が発達しておりその流通は現在国内シェアNo.1ですが、最近新たな種類の紙を開発中だと噂でお聞きしました。何でも『燃えにくい』紙なのだとか」

 10歳になったばかりの子供の口からスラスラと出てきたその言葉に、伯爵はひどく驚いた顔をした。


 これまでずっと、彼は大人が子供に対してする気遣いとしてはパーフェクトに近い対応をセシリアに対して行ってきた。

 しかしそんな彼の言動の中でただ一つだけ足りないものを挙げるとしたら、それは『彼女を他の10歳児と全くの同列として扱っていた事』だろう。


 例えば『ただの10歳児』ではなく『オルトガン伯爵家の今年10歳になった娘』として認識していれば、もしかしたらその対応も変わっていたかもしれない。

「紙の原料となる木が燃えるのですから紙が燃えるのは当たり前ですのに、一体どうやったらそのような紙が出来るのかと思いまして」

 そう言って、セシリアは「何故なのでしょう?」と言わんばかりに小首を傾げて見せた。

 すると彼は「そうか、君はオルトガン伯爵家の娘だった」と独り言ちた。

 すると隣に立っていたもう一人の貴族の男が驚きと納得を混ぜこぜにしたような声でこう呟く。

「オルトガン伯爵家……。確か上の子女達の社交界デビューの歳にも『他とは違う』と驚かれていたな」

 彼のこの物言いからするに、やはり兄姉の時もその特異さは際立っていたらしい。

 
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●本作の続編はこちらから。
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伯爵令嬢が効率主義の権化だったら。 〜ドレス汚し犯(侯爵子息)の行き着いた先〜

●この作品の前編(第2部)は、こちらから。
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【裏話】伯爵令嬢が効率主義の権化になったら。
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