銀狼公子の導き手

竜胆 琳

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一部 プリステラ王国編

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 ジェメイと共に支店に向かったファルナは、朝からジェメイと話し合った内容の詳細をミシェウと詰めることにした。
 円卓に着くとシャオメイがお茶の用意のため、厨房に引っ込んだ。

「本当にジェメイは、先に支店こちらに顔を出していただかないと手続きが進まないでしょう」
「フォウシュンに指示は出しておいただろ」

 ミシェウとジェメイは軽口を言い合いながらも、淡々と書類の確認と各種手続きに必要なサインを済ませていく。

「昼には荷下ろしを終えます。積み込みは空魔石だけですから次回でも問題ありません。午後には出港できますが」
「領主邸の敷地から出れば条件を満たしているから、そこまで急がなくていいわ」

 メイファの体調も考え今日はゆっくりと過ごし、明日の朝の出発でも構わないとファルナが言うと、ジェメイが申し訳なさそうに言い出した。

「あー、すみません。エッダルの荷下ろしの期限があるので、できれば午後に出港したいなと……」
「もう、あなたは。済ますべきことは先に終えてきてください」

 ジェメイがミシェウに叱られているのを見てファルナはクスリと笑う。
 諸事情を踏まえ、今日の午後ゆっくりと出発し、今夜はモーラス郡のエッダル港に停泊することになった。
 船から降りなければウーステスラ共和国への入国手続きは必要ない。
 家財などですぐに必要なものはない。離れの館は家財も含めてミシェウに丸投げし、ゴーレム馬車に積めるだけの身の回りの品だけ持って出国することとなった。

「フォートナムに話は通してあるから、面倒だけど表から回ってね。は使えないようにするから」

 内緒で取り付けた魔道具の門は、取り外すことはできないのでセンサーと魔力供給回路を破壊する。
 繊細な魔道具は修理不能なものも多く、壊れれば取り替えるのが基本だ。
 領主邸の外壁、離れに近い位置に取り付けられた魔道具は、この国の唯一のもので他にはない。
 なにせ、ファルナ考案の帝国内にもまだ多くは出回っていない代物だ。
 魔道具の痕跡を見つけたとしても、この国の者にはそれが何かもわからないだろう。

 控えていたシャオメイが、ファルナが立ち上がるに合わせ椅子を引く。
 ファルナはシャオメイに荷作りについて訪ねた」

「馬車に必要な荷を積むなら1時間もあれば十分です」
「承知しました。昼食をこちらでご用意しますので、11時にお迎えに上がります」

 ミシェウはシャオメイの言葉に頷き立ち上がる。

「じゃあ俺も……」

 同じく立ち上がったジェメイがファルナとシャオメイの後を追おうとしたが、ミシェウに襟首を捕まえられた。

「ぐぇ」
「貴方には仕事が残っています。それともお嬢達とは別船で帰りたいですか?」

 にっこり微笑むミシェウに黒いものを感じたジェメイは「イエ、シゴトヲカタシマス」と素直に座り直すのだった。


 ファルナとシャオメイは二人乗りのゴーレム力車に乗る。
 スーシェン帝国特有のその車は、二輪に座席と折りたたみ式の幌がついたものだ。
 帝国では車夫と呼ばれる人が引く人力車と呼ばれるものだ。
 プリステラ王国では、人力の車は存在しないため、ゴーレム馬をつないでいる。

「後のことはミシェウに任せられるし、思っていたよりも早く国を出られそうだわ」

 ファルナは街並みと行き交う人々を眺めた。
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