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三章.ダンジョン!
1.楽しいダンジョン攻略!①
しおりを挟む冒険者ギルド『黒龍の枕』
ロキは、スイと二人で冒険者ギルドを訪れ、壁に張られているダンジョンリストをじっと眺めていた。
各地に発生しているダンジョンは、ギルドを通さずとも自由に攻略できる。しかしギルドには、分かっている範囲でのダンジョンマップや、ランクごとのリストがあるため、それを見に来ていた。
剣士のレイラが仲間に加わり、現在のパーティは3人。
欲を言えば魔道師が欲しいところだが、とりあえず3人でレベルの低いダンジョン攻略を試してみようと思ったのだ。
ダンジョンはGランクからSランクまで設定されている。
しかし、必ずしもランクと難易度が直結しない場合があるところが、ダンジョンの難しいところだった。
「うーん、どこのダンジョンがいいかな。最初だし、Dランク以下の方がいいかな……」
『Dランク? つまんないわね。どかーんとSランクに行きましょうよ』
「うん、死んじゃうからね?」
肩に乗っているスイを一蹴して、ロキは壁を眺め続けた。
スイはほぼ非戦闘員のため、攻略はロキとレイラが中心となる。なのに、なぜスイはここまで自信があるのかロキには謎だった。
「あのぉ、ロキさん……さっきから、誰としゃべってるんですか……?」
受付嬢のエマにおそるおそる尋ねられて、ロキは慌てて口をつぐんだ。
スイの声は、同じ魔法少女である、ロキとレイラにしか聞こえない。それをつい忘れて、スイと話してしまうのだ。
「な、何でもありませんよ。えっと、ほら。最近、よく天からのお告げが聞こえるんです」
「て、天からのお告げが……!?」
「はい。今振ってきたお告げはですね、ダンジョン攻略はDランク以下にすべし、って声が聞こえてきたんです。だから、Dランク以下のダンジョンを探していた所なんですよ」
「ああ、ロキさん……ルーラさんのパーティに追放されたのがショックで、ついにおかしくなってしまったんですね……」
ロキが適当に言った言葉を聞いて、エマは心底気の毒そうに、ロキを見た。
自分の嘘も悪かったかもしれないが、もう少しオブラートに包んで欲しいと思った。
そのとき、ギルドの扉がばたんと大きな音を立てて開けられる。
ロキは嫌な予感がして、振り返った。
「おはようエマッ! 今日も可愛いわね、男臭いギルドに咲く、一輪の花だわ! ――って、ロキじゃない。あんたまたいるの?」
「……いいでしょ。僕だって、冒険者なんだから」
聞きなれた高飛車な声。
そこにいたのは、元パーティのリーダーであるルーラだった。
相変わらず嫌味な表情を浮かべたまま、ルーラはつかつかとロキの元に歩み寄ってくる。
「あんた、まだ冒険者をやるつもりなの? あんたみたいな冴えない錬金術師が、一人で冒険者をやるなんて、時間の無駄よ。二流品のポーションでも売って暮らした方が、まだマシだわ」
「……ルーラには関係ないだろ。僕は、冒険が好きなんだよ」
「もちろん関係ないわ。あんたがどこで野垂れ死のうともね。それで、今度はダンジョン攻略ってわけ?」
ルーラは馬鹿にするようにそう言って、ロキの目の前の壁に張り出されているダンジョンリストを眺める。それからすぐに、噴き出すように笑った。
「ふふ……っ! ちょっと、ロキ! ここに張り出されているのは、Dランク以下のダンジョンばかりじゃない。あんた、そんな低レベルのダンジョンに行くつもり?」
「うるさいな、ほっといてよ!」
「わたしたちとパーティを組んでいたころは、Aランクのダンジョンに行っていたのに、落ちたものね!」
ルーラはどうして、もう関係のない自分につっかかってくるのだろう。
ルーラは有名人だ。だから、嫌でも目立ってしまう。その証拠に、ギルドにいる冒険者たちは、みんなロキを見て、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたり、笑ったりしていた。
『なにこのオンナ。すっごく感じ悪いわね。ロキ、変身してボコボコに殴りなさいよ』
「……そんなことできないよ。それに、変身するところは見られたくないんだから」
ロキは小声でスイに答える。
ルーラはやっと、ぴょこぴょこと動くスイに気がついたらしく、怪訝そうにスイを見た。
「えっ、あんたスライムなんてペットにしてるの!?」
「だから、ルーラには関係ないだろ! もうほっといてよ」
「Dランクダンジョンに、スライムをペット……あんた、本当に落ちるところまで落ちたわね……」
『ちょっとロキ! このオンナ、あたしを馬鹿にしているわよ! スライムがどれだけ高尚な存在か、早くこのオンナに分からせてあげなさいよ!』
「スイ、ちょっと黙っててくれる?」
真剣に怒りたいのに、スイの言葉で気が抜けてしまう。
そうこうしているうちに、ルーラはふんと鼻を鳴らして、すぐそばの受付の前に移動した。
「エマ。ギルドからの依頼のダンジョン攻略を受けるわ!」
「わぁ、ルーラさん! 当ギルドからの依頼、受けていただけるんですか。助かりますー!」
「早い方がいいから、今から行くわ。地図をちょうだい」
「はーい! 依頼のダンジョンは、この街からすぐ近くにあるシヤハの森から、さらに5kmほど離れた先の崖に発生したダンジョンです。現在のダンジョンのランクはCです」
エマの言葉に驚いて、受付に広げられた地図を見る。
この街からさほど離れていない場所にある、Cランクのダンジョン。
そんなダンジョンを攻略するなんて、ルーラにしてはめずらしいと思ったのだ。
ロキがルーラのパーティにいたころ、ルーラはCランク以下のダンジョンを馬鹿にしていて、BランクかAランクのダンジョンしか攻略していなかった。
そんなロキの疑問に答えるように、ルーラは笑った。
「もちろん、ただのCランクじゃないわ。このダンジョンはね、発生してからまだ一週間も経っていないの」
「たった一週間……? それでCランクか……」
ルーラが何を言いたいのか、ロキにも分かった。
ダンジョンは、突然、何の前触れもなく出現する。詳細は不明だ。
だが出現した際、最初は必ずGランクに設定されている。これはギルドが定めているランクではなく、どのダンジョンの入口にも、必ずランクが示されているのだ。
そして長い時間が経つにつれて、じわじわとダンジョンのランクが上がっていくのが普通なのだが、たまに発生してから日が浅いにも関わらず、急激にランクを上げているダンジョンが存在する。
それが、ルーラが攻略しようとしているダンジョンだろう。
こういったダンジョンは、のちに攻略不可能になるレベルまでランクが上がってしまうケースが多く、そのためギルドが発見次第、優秀な冒険者に攻略させて、消滅させるのが定石だった。
「生還率が3%を切っているのよ。街からも近いし、早く消さないとね」
「生還率3%……って、ルーラ大丈夫なの? 油断しないようにね」
「は? あんたそれ誰に言ってるの? Cランクのダンジョンなんて、余裕に決まってるでしょ。あんたに心配されるまでもないわ」
ロキの心配の言葉に、ルーラはそっけなく返した。
それから嫌味な笑みを浮かべて、ロキを見る。
「でも、攻略報酬はAランクより上なの。何たって、ギルドから攻略金がもらえるからね」
「命あってのお金だよ。本当に気を付けてね」
「だからあんたに心配される筋合いないわよ。あんたはせいぜい、Dランクのダンジョンで、しょぼいお宝でも取ってくるといいわ!」
ルーラはそう言い残して、エマから地図を受け取り、冒険者ギルドを出て行ってしまった。
これから、どこかで待機しているパーティのメンバーと合流して、ダンジョン攻略をするのだろう。
ルーラは、この冒険者ギルドでは、間違いなく一番強い。
だけどなぜか、ロキの胸はざわざわと不安で揺れていた。何だか嫌な予感が拭えなかったのだ。
「ロキさんは、どのダンジョンに行くんですかー?」
エマに声をかけられて、再び壁に張られているダンジョンを眺める。
少し考えて、ロキは壁を指した。
「このFランクダンジョンにします」
「え、Fランクですか……? そんなところ、マトモな宝はないと思いますよ」
「最初だから、これぐらいでいいんです。じゃあ行ってきます!」
ロキはそう言って、冒険者ギルド『黒龍の枕』を出る。
そのダンジョンは、ルーラが攻略しに行ったダンジョンの、すぐ近くにあるダンジョンだった。
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