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二章.仲間集め

4.三人目の魔法少女、レイラさん①

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 暴れまくるスライムに、一晩かけて説明した翌日。

『ふぅん、なかなか賑やかね。あたし、ニンゲンの街なんて、初めて来たわ!』

 ロキの肩に乗っているスライムは、上機嫌そうに言った。
 二人は今、家を出て街に来ている。スライムが人間の街を見てみたいと言ったからだ。

「……ちょっとスイ。モンスターの姿であんまり動かないでよ。目立つだろ?」

『あら、別にいいじゃない。こんなものをつけて、ロキのペットのふりをしているんだもの。誰も気にしないわ」

 ロキは、仲間になったスライムのことを『スイ』と呼ぶことにした。
 スイが、こんなものと言ったものは、スイの頭に飾られている、赤色の小さなリボンのことだ。
 街に出る前に、ロキが手早く服の切れ端で作ったもので、人々を警戒させないようにつけたものだった。

 最弱と言えども、スライムはモンスター。
 そのままの姿で街に出たら、モンスターに免疫のない街の人に恐れられる可能性が高い。
 しかしこれなら、たとえ街の人に見られても、手なずけていることの証明になる。スイを畏怖の対象として見る人間が、ぐんと減るはずだ。
 その予想は大当たりで、街の人たちはスイを見ても、騒いだり怯えたりすることはなかった。
 
『ロキ! おいしそうな食べものがあるわ。あれはなに?』

 スイは、並んでいる屋台の一つを見て、はしゃいだ声をあげた。

「あれは、串肉だよ。動物の肉を焼いて串に刺してあるだけ。っていうかスライムって、あんな人間の食べものを食べるの?」

『わたしたちモンスターは基本的に悪食よ。何だって食べるわ!』

 スイはドヤ顔でそう言った。
 ちなみに、なぜスライム姿のスイと普通に話せるのかというと、なぜか意思疎通できるようになっていたからだ。魔法少女スキルと関係があるのだろうが、詳しいことは分からない。
 そして、スイの声は今のところ、ロキ以外の誰にも聞こえない。
 そのため、傍からみたら、ロキが独り言を言っているように見えるため、すれ違う人々から、よく不審な視線を向けられていた。

『ああなんていい香り! もう我慢できないわ! ロキ、一つ買ってちょうだい! 今すぐよ!』

「えぇ……もーしょうがないなぁ……」

 仕方なくロキは屋台に近づいて、串肉を1本買う。銅貨5枚だ。
 大きな肉が5つついている串を受け取って、スイの口元に近づける。スイは口を大きく開けて、大きな肉を一口で食べた。

『これは……すごくおいしいわ! ロキ、もう1本買ってちょうだい!』

「だめだよ。まだ残ってるでしょ。今は少しでもお金を貯めたいんだから」

『ケチね! 大体、みみっちくケチってないで、さっさとダンジョンに行けばいいじゃない。昨日の話だと、高ランクのダンジョンを攻略すれば、大金が一発で手に入るんでしょ?』

「そりゃ、いつかはそのつもりだけど、僕ら二人じゃまだ難しいよ。せめて、強いアタッカーが一人はいないとね」

 ロキはそう言って、串の肉を一口かじった。
 じゅわっと甘い肉汁が口の中いっぱいに広がる。肉など久しぶりに食べたので、あまりのおいしさに感動してしまった。
 もう一口食べようとしたが、スイが残りの肉をあっという間に食べてしまい、結局一口しか食べられなかった。
 
『――ん?』

 そのとき突然、スイが不審な声をあげる。
 直後、スイが変身した。
 薄い光と共に、緑髪のおさげの美少女が現れて、街の人たちは驚いたようにスイを見る。
 世界には、多種多様なスキルがあるので、騒ぎになることはないが、目立つことには変わりがない。

「ちょ、ちょっと、スイ! こんなところで変身しないでよ!」

 慌ててロキが声をかけると、スイは空になった木の串をボリボリと食べながら、遠く座っている女性を真っ直ぐに指した。

「――ロキ。あのオンナ、絶望の気配がするわよ」




*****

 ――ああ、苦しい。
 胸が苦しくて、頭がおかしくなってしまいそう。
 これからわたくしは、どうして生きていけばよいのでしょうか。さきほどから、涙があふれて、止まらないのです。
 
 わたくしは、あの方に恋をしておりました。
 それはとても甘美な、はじめての恋でした。
 身の程の知らない恋だということぐらい、分かっておりました。
 彼は全ての女性を魅了するような絶世の美青年で、とても優しく、そして強かった。わたくしなどが恋心を抱くことすらおこがましい。そんな存在だったのです。
 
 彼は、Aランクの冒険者でした。
 恋は人を変える。この格言は本当なのだと身をもって感じました。
 なにしろ、ずっと部屋に閉じこもって、本を読んでいたわたくしが、彼に近づくために、剣の修行をはじめたのですから。
 幸いなことに、わたくしには才能がありました。努力と合わさって、剣術の腕はめきめきと上がっていき、剣術のスキルがAランクにまでなったのです。
 そして、彼の元へ行き、必死に頼み込んで、パーティに入れて頂きました。

 彼のパーティは、彼以外、全員が女性でした。
 それも、地味なわたくしとは違って、全員がとても派手で、魅力的で綺麗な女性でした。

 彼に近づいて分かったことがあります。
 それは、外から見ていた彼は幻想だったということです。
 というのも、彼が性格が良いのは外面だけで、実際は女癖がとても悪く、パーティメンバーの女性、全員に手を出していました。
 毎夜毎夜、仲間の女性や、街の女性に甘い声をかけては、部屋に呼んでいたのです。
 きっと、わたくしも彼に呼ばれる日が来るのでしょう。
 けれど、わたくしはそれでもいいと思っておりました。彼になら、利用されてもよいと。
 
 しかし、なぜか彼はわたくしだけには手を出しませんでした。
 もしかして、女としての魅力がないのでしょうか。
 そう心配になったわたくしは、昨日、勇気を出して、彼にたずました。

「どうしてわたくしだけ、お部屋に呼んで頂けないのでしょうか……?」

 このとき、わたくしの声は震えていました。
 はしたなくて、恥ずかしくて、死んでしまいそうでした。
 彼は少し驚いたように目を見開いて、すぐににっこりと、その精悍な顔でさわやかに笑いました。

「はは。レイラにそんなこと、させられないよ」

 彼はそう言いました。
 そのときわたくしは、胸がいっぱいになりました。
 まるで自分だけが特別。そう言われているようで、嬉しかったのです。
 気持ちがみるみるあふれました。
 彼を好きだと思う気持ちがあふれて、止まりませんでした。

「あなたのことが、好きです……」

 あふれた気持ちは止まりませんでした。
 気づいたらわたくしは、彼にそう告げておりました。
 しかし、彼は驚いた表情をしたあと、何も言わずに立ち去ってしまいました。
 

 そして今日。
 つい先ほどの出来事です。

「――レイラ。悪いが、お前をこのパーティから外させてもらう」

 彼は、冷たい瞳をして、わたくしにそう告げました。
 目の前が真っ暗になりました。
 彼がわたくしの告白をどう感じたのか、正確には分かりません。
 しかし間違いなくあれが原因で、良く思われなかったことは確実でした。

 そのあとのことは、あまり思い出せません。
 小さな声で彼に謝り、わたくしは宿を飛び出しました。
 そして今、広場で一人、涙を流しているのです。
 
 通りすがる人々はみんな、一人泣いているわたくしを、不審な目で見ておりました。
 声をかける人はおりません。
 慰めてほしいわけではありませんが、悲しくなりました。
 世界中で、わたくしは一人きり。そんな錯覚に陥るほど、悲しく、孤独に感じました。

 そのときでした。

「あの、大丈夫ですか? 気分でも悪いのですか……?」

 そう声をかけられて、わたくしは顔をあげました。
 そこには、15、16歳ほどに見える、男性がおりました。
 その方は、着用している白衣のポケットから、綿のハンカチを取り出して、わたくしに差し出しました。

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