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1.限りある幸福
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こことは違う、ちょっと不思議な世界のお話。
この世界にはたくさんの国がありました。
一年中氷に覆われてとても寒い国や、動物たちが人間のように振舞って暮らす国――。
10歳の誕生日を迎えた少年ロッコは、幸福の国の住人です。
幸福の国と呼ばれる理由は、住人たちが幸せに暮らしているから?
いいえ、そうとは限りません。
住人たちの頭の上には奇妙な数字が浮かび上がっています。
5004、14786、912……。
この数字は一生のうちに得られる幸福の数を示すものです。
幸福を感じるたびに、数字は一つずつ減っていき、0になってしまうとそれからの人生は不幸しか訪れません。
数字が0にならない限り、幸福であり続ける国。
だから幸福の国と呼ばれています。
さて、ロッコの頭の上はどうなっているでしょうか?
彼に残された幸福の数は10。
これはこの国で最も小さな数字です。
明日にでも死んでしまいそうな老人ですら、もっと多くの幸福が残っています。
ロッコの数字が小さいのは生まれつきです。
両親は数字を減らさないように注意深く育てていましたが、平凡で温かい家庭にはとても難しいことでした。
10歳を迎えるまでに、とうとう指折り数える程度しか残らなくなったのです。
ロッコの祖父母と両親、2人の弟は、誕生日だというのに浮かない顔をしています。
10歳を祝ったせいで、数字が減ってしまうことが怖いからです。
その日、ロッコはある相談を家族にしました。
それはどうにかして数字を減らさず、生きていきたいというものでした。
不幸しか待っていない人生を送るのは、まっぴらです。
だからロッコは決めました。
「僕は旅に出るよ。ここで暮らしていると数字は減るばかりだ。一人で旅に出て、幸せでも不幸でもない場所に行くんだ」
家族がこの提案を喜ぶはずがありません。
可愛い息子が孤独に生きていくのを喜ぶ親がどこにいるでしょう。
しかし父親はロッコを送り出すことにしました。
母親に比べ、父親はどこか意志の弱い人物でした。
自分たちのせいでロッコの数字が減るという責任から逃れたかったのです。
「分かった。旅に必要な物は全てあげるから、気が済むまで世界を渡り歩きなさい」
芯が強い母親はこれに反対しました。
「この子にはまだ早いわ! もし途中で数字が0になってしまったら……!」
母親はだんだんと感情が昂ぶり、泣きながら撤回を求めました。
「この子が出て行くなんて考えられない! 私の数字はまだ6844も残っているのに! 私の毎日は幸せでなければならないわ!!」
父親は泣き崩れる母親に寄り添い、諦めてくれと言わんばかりに背中をさすりました。
祖父母は自分たちの数字が愛する孫よりずっと大きいのを恥じて、顔を覆ったり俯いたりしています。
弟たちはロッコの頭上を凝視して、数字が減るのを今か今かと待っています。
ロッコは最後の一晩をこの家で過ごしてから出発しようと思っていました。
しかし家族はいつにも増して哀れんだ目で自分を見るので、準備が出来次第すぐに出発することにしました。
数日分を食べ物と当分は生きていけるだけのお金を持ち、ロッコは家族に別れを告げました。
家族に背を向け、一歩また一歩と旅路を進める時、母親が大声で叫びました。
「ロッコ、あなたは私たちの大切な家族よ!! いつでも帰ってきなさい!! お母さんはあなたを愛してる!!」
母親の口から初めて聞かされた言葉でした。
幼い頃のロッコは自分は愛されていないと思いながら過ごしていました。
両親がストレートに愛情を表現してこなかったのは、数字を減らさないための努力だったと言うまでもありません。
はっきりと投げられた愛の言葉に、ロッコはどうして良いか分からず、振り返りもしないで歩き続けました。
ロッコの頭上の数字は9になりました。
この世界にはたくさんの国がありました。
一年中氷に覆われてとても寒い国や、動物たちが人間のように振舞って暮らす国――。
10歳の誕生日を迎えた少年ロッコは、幸福の国の住人です。
幸福の国と呼ばれる理由は、住人たちが幸せに暮らしているから?
いいえ、そうとは限りません。
住人たちの頭の上には奇妙な数字が浮かび上がっています。
5004、14786、912……。
この数字は一生のうちに得られる幸福の数を示すものです。
幸福を感じるたびに、数字は一つずつ減っていき、0になってしまうとそれからの人生は不幸しか訪れません。
数字が0にならない限り、幸福であり続ける国。
だから幸福の国と呼ばれています。
さて、ロッコの頭の上はどうなっているでしょうか?
彼に残された幸福の数は10。
これはこの国で最も小さな数字です。
明日にでも死んでしまいそうな老人ですら、もっと多くの幸福が残っています。
ロッコの数字が小さいのは生まれつきです。
両親は数字を減らさないように注意深く育てていましたが、平凡で温かい家庭にはとても難しいことでした。
10歳を迎えるまでに、とうとう指折り数える程度しか残らなくなったのです。
ロッコの祖父母と両親、2人の弟は、誕生日だというのに浮かない顔をしています。
10歳を祝ったせいで、数字が減ってしまうことが怖いからです。
その日、ロッコはある相談を家族にしました。
それはどうにかして数字を減らさず、生きていきたいというものでした。
不幸しか待っていない人生を送るのは、まっぴらです。
だからロッコは決めました。
「僕は旅に出るよ。ここで暮らしていると数字は減るばかりだ。一人で旅に出て、幸せでも不幸でもない場所に行くんだ」
家族がこの提案を喜ぶはずがありません。
可愛い息子が孤独に生きていくのを喜ぶ親がどこにいるでしょう。
しかし父親はロッコを送り出すことにしました。
母親に比べ、父親はどこか意志の弱い人物でした。
自分たちのせいでロッコの数字が減るという責任から逃れたかったのです。
「分かった。旅に必要な物は全てあげるから、気が済むまで世界を渡り歩きなさい」
芯が強い母親はこれに反対しました。
「この子にはまだ早いわ! もし途中で数字が0になってしまったら……!」
母親はだんだんと感情が昂ぶり、泣きながら撤回を求めました。
「この子が出て行くなんて考えられない! 私の数字はまだ6844も残っているのに! 私の毎日は幸せでなければならないわ!!」
父親は泣き崩れる母親に寄り添い、諦めてくれと言わんばかりに背中をさすりました。
祖父母は自分たちの数字が愛する孫よりずっと大きいのを恥じて、顔を覆ったり俯いたりしています。
弟たちはロッコの頭上を凝視して、数字が減るのを今か今かと待っています。
ロッコは最後の一晩をこの家で過ごしてから出発しようと思っていました。
しかし家族はいつにも増して哀れんだ目で自分を見るので、準備が出来次第すぐに出発することにしました。
数日分を食べ物と当分は生きていけるだけのお金を持ち、ロッコは家族に別れを告げました。
家族に背を向け、一歩また一歩と旅路を進める時、母親が大声で叫びました。
「ロッコ、あなたは私たちの大切な家族よ!! いつでも帰ってきなさい!! お母さんはあなたを愛してる!!」
母親の口から初めて聞かされた言葉でした。
幼い頃のロッコは自分は愛されていないと思いながら過ごしていました。
両親がストレートに愛情を表現してこなかったのは、数字を減らさないための努力だったと言うまでもありません。
はっきりと投げられた愛の言葉に、ロッコはどうして良いか分からず、振り返りもしないで歩き続けました。
ロッコの頭上の数字は9になりました。
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