壺の中にはご馳走を

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真珠③

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「次の日も例の道は避け、チャイムが鳴っても絶対に返事をしないと心に決めました。

 夜10時が過ぎても、英国紳士は来ませんでした。

 諦めてくれたと安心し、お風呂に入りました。


 お風呂上がり、ベランダ側のカーテンがちょっと開いているのに気付きました。

 ああいうのって、一度気になってしまうと、直すまで気が収まらないタイプなんです。


 しっかり閉め直そうとカーテンに近づいた時、カーテンが内側のレースごとガバッと開きました。

 私の目に映ったのは、窓に張り付いた英国紳士でした。

 ぎらつかせた目で私を凝視し

『ほぅら、やっぱりいるじゃないか。楽園に行きたくないのかい?』

 呼気で窓は曇っていましたが、英国紳士が不気味な笑みを浮べたのを見ました。


 その日は一晩中電気を点け、寝付くことができませんでした。

 私の部屋は5階なんですよ。

 窓に張り付いていたものは、人間ではないということになります。


 英国紳士に最後に遭ったのは、この前の日曜日です。

 しばらく現れなかったので、油断していました。

 気晴らしにショッピングに行くことにしたんです。

 甘い物さえ口にしなければ、ある程度はコントロールできますから。


 駅ビルが並ぶ大通り。

 目的地へと向かう私の前にステッキが降ってきたんです。

 もう少しで頭に激突するところだったと胸を撫で下ろす暇はありませんでした。

 それは英国紳士のステッキだったからです。


 次の瞬間、同じ場所に英国紳士がぐちゃっと……地面に激しく投げつけられました。

 青色の血液のような液体が飛び散り、左腕は普通とは正反対にひねられていました。


 恐怖で声も出せない私を、通行人は素通りしました。

 きっと彼らには見えてなかったんでしょう。

 あの惨状を見て平然としていられるはずがありません。


 ステッキに強くぶつけた顔は骨が陥没したのか、溶けたように見えました。

 そして私を見ながら言ったんです。

『お前が渡さないから……お前の……せい……だ』


 一目散に走って自宅に帰ってから、今日まであの英国紳士が現れることはありませんでした。

 彼は何者だったんでしょうか。

 私の口から出る真珠に固執した理由は?


 もし可能なら真珠が出ないようにして欲しいです。

 あと、この真珠、ご迷惑でなければ差し上げます。

 このお店では珍しい物がコレクションされてるようなので……」


 小川珠理の真珠は、茉美のコレクションに加えられた。


「真珠を作れるって、売ったらお金持ちですよ!!」

 捕らぬ狸の皮算用をする真也を、茉美は鼻で笑った。


「お前にはこれが宝に見えるか? アタシは泥団子くらいの価値にしか見えないけどねぇ」

「これ偽物なんですか!?」

「そうじゃない。これなんか光沢があって傷一つないから、売ろうと思えば、高値が付く。必ずしも物の価値というものは、いくらで売買されるかでは決められないという話だ。

 まずは、珠理に付き纏った英国紳士とやらの話からしよう」
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